ファンドラップ口座とは?
ファンドラップとは個人投資家が証券会社と投資一任契約を結び、有価証券に関する運用と管理を任せることができるサービスで、その専用口座をファンドラップ口座といいます。
アメリカでラップ口座は1970年代後半に富裕層向けのサービスとしてマネージド・アカウント(MA)としてスタートしましたが、その後一般化し現在その残高は約880兆円あるといわれています。
一方、日本におけるラップ口座は1990年代後半に誕生し、2000年以降に小口化などが功を奏して、その残高も12兆円まで上伸し増加傾向が見られます。
ファンドラップ口座はこのラップ口座の一種で、証券会社の有資格者が投資家にヒアリングを行い、ライフプランや運用目的を相談したうえでアセットアロケーション(運用プログラム)を選定します。
このことから、ファンドラップ口座はオーダーメイドの資金運用口座といえるかもしれません。
ファンドラップの取扱いは大手証券会社・銀行はもとより、資金運用手段の多様化ニーズから地方銀行を含め近年は幅広い金融機関で販売されるようになっています。
サービス内容も充実する傾向にあり、運用プログラムに実績報酬制が導入されているもの、相続支援などを行うものもあります。
ファンドラップと投資信託の違い
ファンドラップと複数の資産・地域に投資するバランス型投資信託との違いについての質問を受けることが多いのですが、その主な疑問に対するコメントを簡単にまとめてみました。
ファンドラップは複数の資産や地域に投資する点やリバランスを行う点ではバランス型投資信託と大きな差異がないと言えるでしょう。
しかしながら、ファンドラップはプロフェッショナルが投資家のリスク許容度をヒアリングした後に、投資家の希望に合致したポートフォリオをベースにして運用を行うことが異なる点です。
このことから、ファンドラップの資金運用は投資家が容認したリスクの範囲内でリターンを追求するスタンスを取ります。
また、ファンドラップは運用資産の時価評価や損益などが投資家に定期的に報告されることから、個々の投資家のニーズに沿って適時適切なアドバイスを受けられることもバランス型投資信託と異なります。
プロフェッショナルが選定してくれる「アセットアロケーション」や「ポートフォリオ」について、聞き慣れない方もいるかもしれません。
「アセットアロケーション、ポートフォリオとは? 投信用語をわかりやすく解説 」の記事ではそれぞれの違いを説明していますので、気になる方はチェックしてみてください。
ファンドラップはこんな人におすすめ
ファンドラップ口座の運用プログラムは、老後の資金形成など比較的長期の資金運用を行います。
また、運用プログラムの投資対象商品(ポートフォリオといいます)は国内外の株式・債券をはじめ、多岐にわたります。さらに投資対象の資産配分比率も運用ルールに沿って適時調整(リバランスといいます)されます。
このような運用を個人投資家が行うには、情報収集能力と判断能力が求められ、その時間と手間も相応にかかることでしょう。
また、自らの判断に基づく資産運用の成果がままならない時の精神的負担も少なくないはずです。
「ウイークデイは仕事に専念しており投資情報収集や資金運用を行う時間が割けず、休日は家族との時間や趣味の時間に充てたい」というタイプの方は、理想的な資金運用・管理をプロフェッショナルに一任できるファンドラップを検討してみるのもいいかもしれません。
ファンドラップのメリット
メリット1/適時アドバイスを受けられる
有資格の担当者による面談や電話などで、適時アドバイスを受けることができます。
このことにより、運用プランの再構築や資産配分のリバランスなどの納得性が高まるという意見も聞かれます。
メリット2/資金運用のプロフェッショナルに一任できる
国際分散投資とその資産比率配分の調整などを、資金運用のプロフェッショナルに一任できます。
投資地域や資産タイプによって、値動きの傾向とその変動率が日々変化するのが金融市場です。
これらの変動要因は異なる特性を持つ資産タイプを複数保有することにより回避できるといわれています。
メリット3/様々なオプションが用意されている
ライフスタイルの変化に対応すべく、様々なオプションが用意されています。
リタイア後に資産運用をしながら一部資産を換金して受け取る「定時払戻し」サービスや、煩雑な手続きと時間が必要な相続において一定の支援が受けられるサービスなどが挙げられます。
ファンドラップのデメリット
デメリット1/費用が比較的大きい
人的サービスの厚さと資産運用における専門性から、投資家が負担する手数料ともいえる費用が比較的大きいといえます。
下に示した比較表ではその費用を投資家が直接的に負担する部分と間接的に負担する部分に分けて表示しました。
運用資金額やプログラム等によって差異はあるものの、その費用は年率で概ね3%程度発生するのではないかと予想します。
費用については証券会社に綿密な確認を行う必要がありそうです。
デメリット2/運用状況や運用実績がほとんど公表されない
ファンドラップは個別に一任契約を結ぶ形態であり、金融機関に情報を公表する義務はないことから、運用状況や運用実績がほとんど公表されていません。
このため、ファンドラップ購入者には3ヶ月ごと年4回の運用状況の報告がされ、これには運用資産の時価評価や損益、残高・取引明細などが記載されています。
しかしながら、ファンドラップも価格変動のある金融商品ゆえ、投資家にとっては資産の評価額は速やかに確認したい、運用状況もより頻繁に報告を受けたいというニーズがあることでしょう。
また、投資信託やファンドラップには預貯金や債券のように利回りという概念はなく、年間の運用実績やシャープレシオ(効率係数)などを参考にして、期待される収益率を把握することが大切です。
デメリット3/比較的高額
対面型ファンドラップは、その最低投資金額が300~500万円と比較的高額ということが言えます。
ファンドラップは投資に関する知識や経験が少なくても利用できるサービスであることから、少額で始めることができるファンドラップのオンラインサービスを行っている証券会社もあります。
また、一般的に投資信託は3~4営業日程度で換金できますが、ファンドラップは証券会社等によって解約ルールが異なるので事前に確認しておきましょう。
ファンドラップ口座比較
対面営業において長年の実績がある大手総合証券会社を中心に5社をピックアップし、特にファンドラップの投資顧問料など手数料に相当する費用について比較してみました。
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野村證券 |
大和証券 |
SMBC日興証券 |
東海東京証券 |
いちよし証券 |
チャネル |
対面取引 |
対面取引 |
対面取引 |
対面取引 |
対面取引 |
主な特徴 |
リスクに強い分散投資、お客様の志向に適合したポートフォリオ構築、将来動向を見込むフォワードルッキングな資産設計をベースとした
独自のCIO(チーフ・インベストメント・オフィス)サービスを行う。
定時定額払戻しやラップ信託(遺言代用信託)もあり |
国際分散投資を適切な配分比率で長期間行うことによる資産の成長を図り、資産管理サービスも充実。
寄付、定時受取サービスのほか、暦年贈与、相続時受取人指定、財産承継サポートなどの特約サービスが充実 |
標準的なサービスであるエドモンド・ロスチャイルド・セレクションとカスタマイズ性が高いプライベート・プレミアム・セレクションがあり、運用開始後のサポートにも重きを置いている。「相続時受取指定サービス ポートフォリオプラン」もあり |
「コミュニケーションシート」でお客様の意向をもとに、中長期的な観点から、お客様のリスク許容度に合った運用プランを提案。
ストップロス、運用資金待機コース、定時定額払戻、次世代継承サービスのオプション機能もあり |
お客様の運用目的や投資方針に合わせて選択可能な5つの運用モデルを用意。投資におけるリスク水準や市場環境に応じて投資配分比率を適宜見直す。ファンド・オブ・ファンズ方式による運用 |
最低運用資産額 |
・500万円(バリュー・プログラム/インデックス運用)
・1000万円(プレミア・プログラム/アクティブ運用) |
300万円 |
・300万円(エドモンド・ロスチャイルド・セレクション)
・3000万円(プライベート・プレミアム・セレクション) |
300万円 |
300万円 |
直接的費用※1 |
固定報酬タイプ |
0.44~1.738% |
0.385~1.76% |
0.22~1.32% |
|
下記料率による |
投資一任料
/投資顧問料 |
0.176~0.418% |
|
目論見書に記載 |
0.495~0.99% |
最大0.704% |
ファンドラップ
手数料/取引管理
手数料 |
0.264~1.32% |
|
目論見書に記載 |
0.33~0.66% |
最大1.32% |
実績報酬
併用タイプ |
0.352~1.529%+
積み上げ額の11% |
-- |
0.198~1.118%+
超過部分成功報酬
11% |
0.56~1.122%
(※3)+成功報酬
部分16.5% |
下記料率+
運用益11.0% |
投資一任料
/投資顧問料 |
0.176~0.418% |
-- |
目論見書に記載 |
0.231~0.66% |
最大0.2464% |
ファンドラップ
手数料/取引管理
手数料 |
0.264~1.32% |
-- |
目論見書に記載 |
0.33~0.66% |
最大1.32% |
その他 |
運用益が積みあがった場合のみ、積み上げ額の11% |
-- |
計算期間最終日における基本報酬控除後の時価評価がHWMを超過した額の11% |
計算基準日の時価評価額が、HWMを上回った場合に、その差額を運用益として16.5% |
実績報酬として運用益の11.0% |
間接的費用※
1 |
運用管理費用 |
信託報酬 |
最大1.35%±0.7%
程度 |
目論見書に記載 |
最大0.685% |
最大1.36%程度
(アクティブプランは最大1.9536%) |
1.05%±0.2%程度 |
信託財産
留保額 |
最大0.5% |
目論見書に記載 |
目論見書に記載 |
最大0.3% |
最大0.5% |
その他費用 |
目論見書に記載 |
目論見書に記載 |
最大2%程度
目論見書に記載 |
目論見書に記載 |
目論見書に記載 |
注:上記数値等は2021年10月時点のものです
※1 当該費用は税込み表示
※2 当該内訳費用は税抜き表示
※3 当初2年(長期フィー割引前)のケース
ファンドラップを始めるには?ラップ口座の選び方
証券会社でのファンドラップ利用を検討するなら、その運用実績や手数料相当の費用を確認し、口座を選ぶことが肝要です。
とりわけ運用実績の評価は対象となるデータ期間が長期であるほど好ましく、該当する時期の世界の政治や経済の時代背景も考慮しながら判断していくと良いでしょう。
また、仮に金融市場でリーマンショック(global financial crisis)やコロナショック(COVID-19 crisis)に類似したマーケットイベント(これらの場合は下落局面)が発生した場合に、運用資産の時価評価や損益がどのような数値になるのかもシミュレーションし、資産のリスク管理も怠らないようにしましょう。
今回比較した証券会社のファンドラップの詳細情報はこちらをご覧ください。
野村證券 「野村ファンドラップ」
大和証券 「ダイワファンドラップ」
SMBC日興証券 「日興ファンドラップ」
東海東京証券 「東海東京ファンドラップ」
いちよし証券 「いちよしファンドラップ ドリーム・コレクション」
ファンドラップに関するQ&A
Qファンドラップはひどい金融商品だと聞きましたが、本当ですか
ファンドラップは運用・管理をプロフェッショナルに任せるサービスであることから、一定の費用が発生します。
このため結果的に投資家へのリターンが低くなってしまうこともあり、「ファンドラップはひどい」と受け止める方もいるのではないでしょうか。
投資信託での資金運用に関する知識があり、日々の世界金融の情報収集も苦にならず、かつポートフォリオの見直しなどに必要な時間が割ける方にとっては、ファンドラップは必要ないかもしれません。
しかし、これに当てはまらない方にとっては、一考の余地のある金融サービスということができるのではないでしょうか。
Qファンドラップの解約タイミングを教えてください
解約タイミングは、例えば当初の目標金額(期待値)をファンドラップの運用成績が上回った時ということができるでしょう。
しかし、ファンドラップによっては、期待値を上回った場合に価格変動率が低い(低リスク)コースに変更できるタイプもありますので、取引先の金融機関に相談してみてはいかがでしょうか。
Qファンドラップで大損をしたと知人が話していましたが、どの程度の損失なのでしょうか。
ファンドラップの価格は、世界の政治状況や経済的要因(一般的には物価・為替・金利など)によって変動します。
しかしながら、ファンドラップは投資家が容認したリスク(価格変動率)の範囲内でリターンを追求するスタンスを取ります。
よって、投資家がファンドラップ選定時に高リスクを容認したならば、それ相応の損失(ここでいう「大損」)が発生することもあるでしょう。
Qファンドラップの手数料は高いのでしょうか
低金利が続く我が国において、ファンドラップの費用(料率)は低いとはいえないかもしれません。
しかし、文中にもありますが「ウイークデイは仕事に専念しており投資情報収集や資金運用を行う時間が割けず、休日は家族との時間や趣味の時間に充てたい」というタイプの方は、理想的な資金運用・管理をプロフェッショナルに一任できるファンドラップは一考に値するかもしれません。
Qおすすめのファンドラップを教えてください
ファンドラップは有望と思われる株式や債券のみに投資する商品ではありません。
ファンドラップを取扱う金融機関は、投資家が求める期待収益率と容認できる価格変動率、それに加えてリスク許容度(リスク忌避度ともいいます)などを事前ヒアリングした後に、これらのニーズにマッチするファンドラップを提案するはずです。
よって、人それぞれのライフプランがあり運用目的も異なるので、おすすめのファンドラップは「十人十色」ということができるでしょう。