高利回りの分配原資は「オプションプレミアム」
インカム収入と聞くと、まず思い浮かぶのは、債券のクーポン収入や株式の配当ではないでしょうか。しかし、これらの伝統的な収益源では、年率18%*はおろか年率10%*を超える水準を継続的に得るのは容易ではありません。
「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」が分配金の主な原資としているのは、株式の配当ではなく、「カバードコール戦略」と呼ばれるオプション取引戦略によって得られるオプションプレミアムです。「カバードコール戦略」では「あらかじめ決められた価格で買う権利(コールオプション)」を売却し、その対価として「オプションプレミアム」を受け取ります。値上がり益の一部を手放す代わりに、安定的なインカム収入を受け取ることができる戦略です。つまり、株式の値上がり益や配当とは異なる言わば「第三のインカム」を分配の原資としている点が、このETFの特徴です。
今回取り上げる「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」は、S&P500指数を原資産としたカバードコール戦略のETFです。その特性を、基準価額の推移から確認したいところですが、まだ上場から1年未満であり、充分な分析をするデータがありません。
そこで、運用会社であるブラックロック・ジャパン様にお話をお伺いしました。取材には指数を算出・公表しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス様も同席し、より中立的な立場で対象指数についてもご説明いただきます。
今回、取材にお応えいただいたのは、ブラックロック・ジャパン株式会社のプロダクト・ソリューション部 ETF商品担当 鈴木絵里可さんとS&P ダウ・ジョーンズ・インデックスのマーケット・デベロップメント 東アジア担当 樋口琴美さんです。
残高1,800億米ドル*²を突破した米国籍カバードコールETF
まず、米国におけるカバードコールETFの状況を教えてください。
ブラックロック・ジャパン株式会社のプロダクト・ソリューション部 ETF商品担当 鈴木絵里可さん
鈴木 米国のカバードコールETFは、約10年前の2016年まで遡ることができます。しかし、残高の増加が顕著になったのは2020年以降です。2026年5月末には1,800億米ドル*²を突破しています。
*²出所:BLACKROCK GLOBAL ETP Landscape、2026年5月末時点。「Segment」が「Outcome」、 「Sub Segment」が「Income」の米国籍ETFの残高の合計。
鈴木 伝統的な株式や債券のインカムの水準は、低下傾向にあります。特に株式は直近の株価の上昇もあり、株式からの配当だけで高い利回りを得るのが難しくなっています。そのなかで一般的に、カバードコールETFは比較的高い利回り、かつ定期的に分配を受け取ることができるという魅力があります。
市場の先行きが見通し辛い環境でも、インカムは毎年、毎月など分配金拠出のタイミングで受け取れますので、投資家の安心感につながるのに加え、リターンの安定化にも寄与します。
上記は仮定に基づくイメージであり、実際の投資結果を反映したものではなく、将来の結果を保証するものでもありません。
米国では、これまでリターンの源泉としてキャピタルゲイン(値上がり益)がメジャーだったわけですが、近年は“リターンの分散”の観点でインカムへのニーズが顕著になってきていて、カバードコールETFの拡大は一時的なものではなく今後も続くと考えています。
米国におけるインカムに対するニーズは、日本でも同じですよね。
鈴木 NISAで人気のETFを見ると、高配当株やREITを投資対象とするETFが上位に多数見受けられ、日本でもインカムに対するニーズは根強いものがあります。毎月分配のカバードコールETFはNISA対象外にも関わらず、純資産の合計額は900億円を超えています。*
*出所:JPXおよびブルームバーグのデータをもとにブラックロック調べ、2026年6月22日時点。JPXの「銘柄一覧」において「エンハンスト型」と分類されている東証上場ETFのうち、カバードコール指標に連動するETF、またはコールオプションの売却を行うETFの残高の合計。
やはり、より高い利回りが期待できるカバードコールETFの人気が高まりつつある状況と言えるでしょう。
高水準のインカムとキャピタルを両立
東証にも色々なカバードコールETFが増えてきましたが、原資産の種類やカバードコール戦略によって、その特性は様々かと思います。「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」の連動対象指数であるCboe S&P500エンハンスト1%OTMバイライト NTR指数(円建て)について教えてください。
S&P ダウ・ジョーンズ・インデックスのマーケット・デベロップメント 東アジア担当 樋口琴美さん
樋口 最大の特徴は、より高いインカムが期待できる点です*。これは市場リスク(ボラティリティ)をオプションプレミアムとして得る仕組みによるものです。
*本ETFからの分配を必ず保証するものではありません。
また、他のカバードコール指数との大きな違いは、高いインカムが期待できるだけでなく、S&P500の値上がりを月間1%まで享受できる点です。これは権利行使価格が1%高いコールオプションを売却する戦略を同指数が採用しているからです。つまりキャピタルゲインの一部は犠牲にしてインカムを得つつも、完全にはキャピタルゲインを放棄しないことを目的とした指数です。
この2つの特徴により同指数は、米国の株価が緩やかに上昇している局面や横ばいの相場、あるいは軽度の下落局面において有効性を発揮する特性となっています。
上記は1%のOTM(アウト・オブ・ザ・マネー)の原資産のコールオプション(原資産価格に対して1%高い行使価格のコールオプション)を月次で売り建てるプレミアムインカム戦略のイメージです。毎月1%まで原資産の上昇による値上がり益を享受できる一方、1%を超える将来の値上がり益をあらかじめ売却する戦略です。仮定に基づく戦略の簡素化されたイメージであり、実際の投資結果を反映したものではなく、将来の結果を保証するものでもありません。ETFにかかる信託報酬率の費用等は考慮しておりません。
加えて値下がり時は、インカムがトータルリターンの安定化につながるのですね。
樋口 その通りです。オプションプレミアムの水準は市場のボラティリティによって決まるので、市場が大きく動き、ボラティリティが高まる局面では、高水準になる傾向があります。
この傾向は指数の過去のインカムとキャピタルのリターンの内訳推移をみても明らかで、リーマンショック時(2008年)やコロナショック時(2020年)はボラティリティの上昇に伴い、オプションプレミアムも上昇しますが、インカム・リターンも高水準となっています。その結果、リターンの安定性向上に寄与していますね。
出所:ブラックロック、2026年5月末時点。2026年までの年次データ。2026年は2026年1月~2026年5月末までの期間。
最大年率利回り24%が期待できる分配方針*³
「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」の分配方針を教えてください。オプションプレミアムがそのまま分配金の原資になっているのですか?
鈴木 「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」の投資先の米国ETFは毎月のオプションプレミアムに原資産から受け取る配当金を加えた額を原資とし、基準価額の2%を上限に毎月分配します。
基準価額の2%を上限とすると年率換算では最大24%*³の利回りですね。
鈴木 これは他のカバードコールETFと比較しても、より高い水準です。国内ETFの足元の分配実績を年換算すると、利回り20%以上*³となり、これは東証上場のETFのなかでもっとも高い利回りになります。
*³税引き前の利回り。仮定に基づくイメージであり、実際の投資結果を反映したものではなく、将来の結果を保証するものでもありません。分配に対する税金(源泉徴収税等)は考慮していません。希薄化・濃縮化や分配のタイミングの違い等により、投資先の米国ETFの分配利回りと国内ETFの分配利回りは一致しない場合があります。
実際に、東証ではまだ上場から1年経っていないなかですが、投資先の米国ETFの利回りを見ると、高い水準で推移しており、高い利回りは一時的なものではなく、「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」の戦略の特性であると言えます。
出所:ブルームバーグのデータを基にブラックロック作成、「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」の投資先とするETFの上場1年後から、2026年5月末までの過去12か月分配利回り(税引き前)。主要株価指数、および東証上場のS&P500を原資産とする毎月決済型のカバードコールETFの投資先ETFの利回り比較。「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」戦略=投資先の米国ETF「iShares S&P 500 BuyWrite ETF」、S&P500=「S&P500 指数」、日経高配当=「日経平均高配当株50指数」
ポートフォリオに組み入れるのが有効的
具体的にどのような活用法が有効でしょう?
鈴木 「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」は相場が下落、または不安定な局面でも投資を続けられるETFと言えます。従って、相場の見通しが難しい時に、購入いただくという方法が考えられます。
しかし当ETFは、市場の上昇局面すべてを追えるわけではありませんので、単体ではなくポートフォリオとしてお持ちいただくことが、有効な活用法になると思われます。
例えば、S&P 500のETFを80%、「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」を20%お持ちいただくと、S&P 500のETFに100%投資する場合とくらべて、キャピタルゲインが小さくなる半面、分配利回りは3倍以上に強化できるため、トータルリターンは大きく損なうことがありません。
またボラティリティが低く抑えられるため、リターンの分散効果でより安定したポートフォリオとなっています。
*1過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」からの分配は、市場環境や運用状況によって変動します。
出所:ブルームバーグのデータをもとにブラックロック作成、2026年5月末時点。➀は「iShares Core S&P 500 ETF」を100%、②は「iShares Core S&P 500 ETF」を80%、「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカムETF」が投資対象とする「iShares S&P 500 BuyWrite ETF」を20%組み入れた仮のポートフォリオ。過去1年間の比較、パフォーマンスは円換算ベース。分配利回りは、米国上場ETFからの分配にかかる日米租税条約に基づいた税率10%の源泉徴収を考慮した税引き後の利回り。上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
“Stay Invested”。どんな相場でも投資をし続ける
最後に投資家へのメッセージをお願いします。
鈴木 私たちブラックロックは、長期の資産形成は“Stay Invested”、つまり、どんな相場でも、投資をし続けることが重要だと考えております。そのため、成長局面でも不安定な局面でも自由にポートフォリオが組めるS&P500のETFを揃えています。
鈴木 例えば「iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF」をポートフォリオの軸にして、大型株にけん引され相場が上昇すると考えられる場合には、S&P500の上位20銘柄に投資をする集中投資型の「iシェアーズ S&P 500 トップ 20 ETF」の比率を増やします。
一方、先行きが不透明な環境では「iシェアーズ S&P 500 プレミアムインカム ETF」の比率を増やすなど、投資環境の変化に応じて、どんな相場でも投資し続けることで長期的なリターンの獲得を目指していただきたいと思っています。
編集後記
資産・地域の分散に続く新たな分散、“リターンの分散”に注目
18%*という高い利回りに注目した今回の取材ですが、“リターンの分散“という新たな発見がありました。
リスクを低減する方法である分散には、“資産の分散”と“地域の分散”の2つが知られています。
しかし近年、分散投資の代表格である株式と債券の分散効果が低下しています。また、経済のグローバル化により、地域分散も以前のように期待ができない状況です。
そんななか、高い利回りに注目したインカムとキャピタルの両立による“リターンの分散“は、トータルリターンの安定化を目指す新たな分散手法として注目されるところです。
重要事項
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