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みんかぶプレミアムとは第2回「 アフターコロナ 世界での日本の役割」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第2回のテーマは「アフターコロナ 世界での日本の役割」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
「家族を連れてくるんじゃなかったかもしれない。」50年以上、米国に暮らしている父が最近になって心を痛めています。
終戦時に16歳の青年だった父は「いつか、この大きなアメリカ人と対等に仕事をしたい」という夢を抱き、39歳のときに念願の米国の土を踏み、それ以来、ほぼ帰国することなく、母と共に米国で暮らしています。妹たちもアメリカ人に嫁ぎ、5人家族の中で帰国して日本で生活をしているのは私だけですが、「健が正しかったのかもしれない」という弱音を吐く父は初めてです。ちょっと驚きました。
そろそろ91歳という年齢のためかと思いきや、毎日腕立て伏せをしていると自慢をしています。父の嘆きはトランプの大統領就任から始まりましたが、それは本人の品格が疑われる立ち居振る舞いの事だけではなく、同氏のような人物を大統領に当選させた米国社会の衰退に失望しているようにも感じます。
世界で最も豊かな先進国である米国の新型コロナ・ウイルス感染による死亡者数は6月5日現在で11万人を超え、世界全体の三割弱です。コロナ禍の影響で米国社会の貧富の格差が顕著に表れ、足元では燻っていた人種差別問題が一気に火を噴きました。
外出自粛で家にこもっている父はTVで流れてくるニュースを見るのが嫌になり、最近ではYouTubeで京都の風景などを眺めているようです。夢が叶った青年の心を持っていた父が憧れていたアメリカの姿が失われつつあるように思います。
かつてのアメリカであれば、世界が危機に瀕したときには、必ず全世界に希望ある連帯のメッセージを発していました。今回は、それが全くありません。「アメリカ・ファースト」で内向きになり、「アメリカ・ユナイテッド」ではなく、分裂しています。今秋にトランプ大統領が落選したとしても、アメリカ社会が失われた時代から抜け出すことは当面なさそうです。
西欧諸国も新型コロナ・ウイルス感染による荒廃から立ち直るには時間がかかりそうです。英国の百万人当たりの死亡者数は588名(6月5日現在)であり、スペイン(同580名)やイタリア(同557名)よりも上回ります。西欧の優等生はドイツ(同104名)であり、さすが堅実な国民性を表しているのかもしれません。ただ、それでも、ウイルス禍の対策が遅れていたと言われる日本(同7名)のおよそ15倍の死亡者数です。
同じ先進国で、人権を尊重する民主主義の国家運営も同様であるはずなのに、この圧倒的な違いは何なのでしょうか。
専門家の総括を待たなければなりませんが、日本社会で新型コロナ・ウイルス感染に対して一番効力があったのは、検査やワクチン、治療薬などではなく、一人ひとりの自律的行動の影響が大きかったのではないでしょうか。「自粛」の本来の意味は、自分から進んで行いや態度を改めることです。決してネガティブな言葉ではありません。
一人ひとりの適切な行動が、多数の人のためにもなり、感染被害を抑制することができたのではないでしょうか。一方、自粛精神が乏しく、他の人がやってくれればよいという身勝手な行動が多ければ、コロナ禍による傷跡は遥かに大きく深いものになったことでしょう。
不要不急。もし、新型コロナ・ウイルス感染による緊急事態宣言下の暮らしで私たち日本人にひとつだけ学びがあったとしたら、それは何が「不要」で、何が「不急」であるのかがわかったことであると期待しています。
「不要」「不急」がわかるということは、逆に、何が「必要」で何が「緊急」であるかというのがわかったことでもあります。「必要」「緊急」の判断ができるからこそ、見えない脅威にも立ち向かえます。
MEからWEへ。これは現代における渋沢栄一の精神だと思っています。決してMEの否定ではありません。MEという存在があるからこそ、MEの行動があるからこそ、WEへ恩恵が広まるのです。
そして、WEの存在があるからこそ、MEの豊かな暮らしがある。MEとWEは相互に必要な存在である。そして、その関係を維持することは「緊急」である。そんなことを、私たち日本人は、この数か月で学んだと思います。この学びを、日本が世界へ広める。コロナ禍を経て、そのような時代が訪れたのではないでしょうか。
その兆しもあります。新型コロナウイルスへの対応やワクチン普及などの予防接種を発展途上国へ推進する取り組みである、Gaviワクチンアライアンスの第3次増資会合が6月4日にオンラインで開催され、日本政府は前回の3倍にあたる総額3億ドル(およそ330億円)をプレッジ(誓い)しました。関係者のご尽力に心より敬意を表します。
コロナ禍で打撃を受けた欧米社会のかつての存在感が薄れ、グローバル社会の行方が問われている昨今だからこそ、新興国の持続可能な開発目標(SDGs)を達成する、インパクトある日本からの新たなお金の流れをつくるべきではないでしょうか。コロナの影響で国内情勢が厳しいのに、なぜ敢えて新興国なのか。
それは、日本はいい国だからです。謙虚で不要不急がわかる、信念があって必要緊急がわかっている、いい国だからです。そして、MEからWEへの投資とは次世代の豊かな暮らしを実現させる戦略的な長期投資だからです。アフター・コロナの時代は、ウィズ・日本の時代だからです。
□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。http://y.bmd.jp/bm/p/aa/fw.php?d=70&i=ken_shibusawa&c=98&n=15234)
『渋沢栄一 訓言集』国家と社会
人は孤立して生存する能わずと言うは、
換言すれば共同が必要であるという意味である。
緊急事態宣言下のステイホームで私たちが不便を感じながらも、理性を保つことができたのは、WEBなどを通じて社会とつながり、仕事も継続することができたからです。MEのために、WEは不可欠な存在です。
『論語と算盤』武士道は実業道
いまや武士道は移してもって
実業道とするがよい。
日本人はあくまで大和魂の
権化たる武士道をもってたたねばならぬ。
武士道の真髄とは、以下などを加味した複雑な道徳であると渋沢栄一は指摘しています。
・正しいすじみちの正義
・心が清くまっすぐな廉直
・強きが弱きを助ける義侠
・物事をおしきる敢為
・他人に敬意を表す礼譲
アフターコロナの新しい時代において、ウィズ・日本の大事な要素になりますね。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。
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❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第1回「新型コロナ、最大のリスクは?」
配信元:NTTデータエービック
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