外国為替における2種類の収益パターン
FXは外国為替証拠金取引の略で、通貨間の交換レートに投資する金融商品です。
FXを含むどんな投資にも、収益を得るにはキャピタルゲインとインカムゲインの2系統があります 。FXの場合は、安く買って高く売る、あるいは高く売って安く買い戻すことで売買差益を狙うのがキャピタルゲインです。
対して、通貨間の政策金利(短期金利)差を解消する目的で受取り、あるいは支払いになるスワップポイントで利益を積み重ねるのがインカムゲインです。
日本でFXがブームになり始めた2000年代前半から、スワップポイントを狙った投資は人気がありました。アクティブなトレードに慣れていない方でも、預貯金のような感覚で参加できたからだと思います。また、リーマンショック前のこの時期は、スワップポイントのベースになる短期金利を高く設定している国が多く、そういった高金利国を買い、低金利の日本円を売る組み合わせに人気がありました。
意外に難しいインカムゲイン狙い
分かりやすさが魅力の金利狙い運用ですが、成功への道はなかなかに険しい印象です。主観ベースですが、周囲の投資家を見ていても、外国為替のインカムゲイン狙いで長期的に成功している例は少ないです。
FXにも債券投資にも共通する、金利狙いのトレードが難航する原因として考えられるものをいくつかピックアップしてみました。
金利以上の為替差損を負うことがある
金利収入を得るために保有している高金利通貨の価格が下落することで為替損失が発生し、それまでに得た金利収入を食い潰してしまうケースがあります。
世界的なショック相場では高金利通貨がより暴落しやすい
「その通貨が高金利であることには、何らかの理由がある」というのが、為替相場におけるセオリーです。高金利通貨国は政治や財政において脆弱な部分があり、世界的な経済がリスクオフ(リスクを避ける動き)になると、真っ先に売り込まれて暴落するケースが見られます。
長期に渡って高金利を保てないことがある
金利狙いの債券投資において、継続的にリターンを狙うためには、投資先が高金利を維持していることが求められます。ですが、各国中央銀行にとって、金利政策は経済的施策の要ですから、常に変化する可能性があることを忘れてはいけません。
下降トレンドが続くトルコリラの例
「① 金利以上の為替差損を負うことがある」に該当するのがトルコリラです。2021年1月時点で、トルコリラの政策金利は17.00%。国内のFX会社で主に取引できる通貨の中では圧倒的に高金利であり、低金利の円との組み合わせであるトルコリラ円は、十分な買いスワップが期待できる通貨ペアとして認知されています。
トルコリラ政策金利の推移(外為どっとコム公式サイトより)
2011年からの政策金利の流れを見ても、一番低い時期でも4.5%、一番高い時期で24.0%にもなっており、長く保有すれば金利収入をコツコツ得ることが可能です。
これだけ見れば「美味しい投資先」に見えるかもしれませんが、そうも簡単ではないのがインカムゲイン狙いの投資です。
こちらはトルコリラの対円チャートで、2007年からの価格推移となります。一目瞭然でずっとトルコリラの価値が下がっていることは明白。高い金利を狙ってホールドをすればインカムゲインはありますが、それをはるかに上回る為替差損が発生しているため、資産は目減りすることになります。
コロナショックで史上最安値を更新した南アランド、メキシコペソ
「② 世界的なショック相場では高金利通貨がより暴落しやすい」のケースも見ていきましょう。
2020年3月、新型コロナウイルスのリスクが表面化して、世界的なリスクオフの展開に。この時期の高金利通貨の動きを見ていると、ショック相場時の特徴が分かってきます。
こちらは南アランドの対円レートです。
続いてメキシコペソ円の対円レートです。
緑色の丸で囲んだのが、2020年3月の月足ですが、どちらもそれまでの史上最安値を更新する激しい暴落となっています。
対してこちらは米ドルの対円レートです。コロナショックによる暴落は起きていますが、75円前後の史上最安値にはほど遠く、節目として意識されやすい100円を割りこむことすらありませんでした。
このように、高金利が期待できる通貨ほど、世界的なリスク相場に弱く、大きな為替差損が発生しやすい特徴 があります。前述のトルコリラも、同様にコロナショック時には史上最安値を更新しています。
かつて高金利通貨の代表選手だった豪ドル、NZドルは今
「③ 長期に渡って高金利を保てないことがある」では、豪ドル、NZドルというオセアニア通貨が典型例となります。これは、2010年代前半までは高金利通貨の代表格でした。
豪ドル政策金利の推移(外為どっとコム公式サイトより)
NZドル政策金利の推移(外為どっとコム公式サイトより)
リーマンショックが発生した2008年夏より前には、豪ドルで7.25%、NZドルで8.25%という高金利でした。しかしそれ以降はグラフを見ての通り、政策金利は下降の一途。いつの間にか、金利狙いでこれらオセアニア通貨を保有するというアイデア自体が過去のものになりました。
2021年2月時点で、豪ドルは0.10%、NZドルで0.25%の金利なので、積極的に金利を狙う水準にあるとはいえないでしょう。
このように、金利狙いの通貨ペアの「旬」は、意外に短いサイクルで移り変わるものなのです。
パワード・インカムは年率10%を狙う
ここまで、外国為替に関わってきた立場から述べさせていただきました。利回りの高い外国債券を狙う運用は、一筋縄ではいかないことがお分かりいただけたかと思います。
まして2020年から続く新型コロナウイルスの影響で、先ほどの豪ドルやNZドルを含め、ほとんどの国が低金利になっているのが現状です。まだトルコリラやブラジルレアルは高金利を保っているものの、これまた先述の通り通貨自体が不安定で、金利以上の為替差損のリスクがあります。
こう考えると、少なくとも今の状況では、外国の債券を主体にしたファンド運用で、高い利回りを得ることが難しいのかもしれません。
ところが、そういった現状にあって、年率10%のインカム確保を目指す 、新しいファンドの募集が始まりました。「債券パワード・インカムファンド(毎月分配型)/(資産成長型)」、略してパワード・インカム です。
最大5倍のレバレッジをかけながら、高いリターンを目指す積極的な戦略を採用するファンドです。こちらの投資対象は以下の4つ。
米国債
米ジニーメイ債
米投資適格社債
米ハイイールド社債
リスクとリターンが異なる米国の4つの債券に投資するわけですが、内部のポートフォリオ的なバランスと適正なレバレッジを、金融工学を用いて毎日調整 します。
また為替変動リスクを抑えるため、担保付スワップ取引 を用いることで、為替変動リスクを限定します。これはつまり元本は円のまま保持するため、この部分の為替変動リスクはない ということです。
FXの情報発信をする立場から見て、なかなかに手強い高金利国の債券ではなく、米国の4種類の債券を組み合わせる思想は、今の相場の環境にはマッチしている と思います。ある程度のリスクを取っての積極運用をする方にとって、このパワード・インカムは有力な選択肢になるのではないでしょうか。
【執筆者】
鹿内 武蔵 (しかうち むさし)
国内唯一の月刊FX情報誌、FX攻略.comの元副編集長として、2008年の創刊時より取材・編集・執筆に携わる。 多くの勝ち組トレーダーや証券会社を取材してきた経験を活かし、FXが国民的投資になることを目標に活動中。各種メディアでの執筆の他、トレーダーとしてFX、仮想通貨、個別株、先物などの運用も積極的に行っている。