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みんかぶプレミアムとはシブサワ・レター ~こぼれ話~
第46回「つみたてNISAは海外でなくても良いんじゃない⁉」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第46回のテーマは「つみたてNISAは海外でなくても良いんじゃない⁉」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
今年の1月から始まった新NISA(少額投資非課税制度)の口座開設が急増しているようです。特にオンライン証券会社における口座開設の激増が顕著なことから、「投資」とは縁が無いと思われていた若手世代が動き始めている状況が推測できます。色々なところで広告を見かけるので、新NISAの取り扱いが証券会社や銀行で始まったことは何となく認識しており、また最近の株式市場が好調のようなので、自分もやった方が良いのかな~と思っている人々はかなり多いでしょう。でも、まだやっていない人の方が多いかと思います。
結論から言えば、やることを強くお薦めします。特に年間120万円の投資から生じる利益が無期限に非課税優遇される「つみたて投資枠」の新NISAは、金額を問わず、毎月の家計の中で無理のない範囲で、必ず始めた方が良いと思います。
2018年から始まった既存「つみたてNISA」も良い制度でした。ただ時限的な制度であるという課題があり、2021年に発足した岸田政権が設けた「新しい資本主義実現会議」の構成員として、つみたてNISA制度の恒久化を提案しました。旧制度が実施された3年間では、20代、30代の年齢層の口座開設数の伸び率が最も高く、日本の新しい時代を支える新たなお金の流れが生じていることに着眼したからです。
証券業協会などの政府への後押しもあり、恒久化のみならず、上限が年40万円から3倍になる等、新しい資本主義における「人への投資」という重要項目としてかなり思い切った制度改正が施行されました。
ただ私が推した「つみたてNISAを未成年にも解禁」については業界団体が推さなかったようで実現しませんでした。また、非課税保有期間が無期限にも関わらず(「お金持ち優遇」という批判をかわすために)非課税保有限度額(要は天井)が設けられたという課題があります。したがって、やり残している更なる改正の宿題は残っています。
しかしながら、「岸田政権は何もしていない」という一般的な批判は、新NISA制度改正という判断材料だけでも正しくないことは明らかです。日本の成人の全員、およそ1億人が毎月1万円、あるいは、成人人口の1割の1千万人が毎月10万円の「つみたて投資」を実施しただけで、月1兆円という「貯蓄から投資」の巨大な流れが生じます。
ただ、「そんな制度では、カネが日本から流出するだけだ」という批判の声も上がるでしょう。確かに、つみたてNISA=海外株式インデックスと自動的に連想しがちなように、新規口座開設者の投資先は、米株式や世界株式の指数(インデックス)型運用が圧倒的比率を占めています。インターネットでは数多く選ばれるものが上位に推薦されるという”Attention Economy”の乗数効果がありますし、店頭でも「皆さんが購入されています」と勧めた方が勧誘しやすいです。日本人のお金が、新NISAを通じて、世界へと流れ始めていることは疑いない事実です。
ただ「資産運立国」にとって、これは極めて合理的で且つ、好ましい現象です。一方で、つみたてNISAは海外株式インデックスじゃなくても良いと私は思います。
まずは、海外株式インデックス投資を好む合理的な側面についてですが、「資産運用立国」が誰のために立ち上がっているかというと、それは金融業者、企業や政府のためでなく、日本の一般市民です。
日本の人口減少という超メガトレンドにおいて、寝かされている円現預金を人口が増えて成長が見込める世界に向かわせ、その成長の果実を自分の懐に呼び込む「グローバル展開の成長と分配の好循環」により資産形成することは、「お金持ち」の道楽ではありません。今後の逆ピラミッド型人口動態が不可避な日本に生きる一般市民として極めて重要であり、合理的な行動です。INVEST(投資)とは、世の中の成長をIN(入れる)、VEST(身に付ける)ことです。
と言われても、海外の個別の投資はわからない。だから「全体」を買うインデックス型投資信託で良かろうという判断は合理的です。また、インデックス型投資信託の信託報酬(購入者負担の保有残高に加算される年率運用費)が低いことも、長期的に毎月買い付ける際に有利に働くので好ましいです。
しかしながら、好ましい合理性ある海外株式インデックスに新NISAのつみたて投資枠を使わずとも、日本株式投資を厳選投資するアクティブ型の投資信託という選択肢があることも日本人は認識すべきです。でも「いやいや、多くの専門家はアクティブ運用の選別型投資は長期的にインデックスに勝てないと言っているじゃないか」という反論があるでしょう。
しかし「専門家」が主に参考にしている情報源の大元は学術的な文献です。そして、その文献が主にどこから来ているかといえば、日本国外からの経験値です。人口が増え続け、全体の成長が右上がりの下での経験値であります。そのような投資環境であれば、「全体」や「平均」を最も安く購入することは合理的です。一方、日本の今まで約30年間、そしてこれからの時代の人口減少における投資環境ではいかがでしょう。そこには「全体」や「平均」の投資に魅力は見いだせません。
「だからこそ、海外株式投資でしょう」という一元的な考えにも反論します。先月のレターで示したように、日本は新しい時代に入っており、これからの日本企業の価値創造に期待しています。ただ本来は成長のために自社の株式を公開しているはずの上場企業だけを対象にしても、残念ながら、約3800社の「全体」や「平均」が、その期待に応えてくれることはないでしょう。
「2割が全体の8割の成果を出している」という一般論があるように、「全体」の一部だけが新しい時代での持続的な価値創造の担い手になることが現実的です。と考えると、日本株式の長期投資の場合、その2割を投資対象として目指したアクティブ型運用の方がインデックス型運用よりも合理的であり、且つ、海外投資に劣ることもないと思います。
2009年1月に設定した「コモンズ30ファンド」は、世代を超える30年目線の持続的な価値創造で厳選する30社への長期投資に挑み、まだ15年の運用実績しかありませんが、設定来の年率リターンは12.77%です。同期間のTOPIX配当込み、要は「全体」の指数の年率リターンは11.14%であり、日経平均225の年率リターンは11.48%です。コモンズ30ファンドのアクティブ運用の15年間の実績は、学術的文献では異常値として分析に含まれないかもしれません。
コモンズ30ファンドが厳選する投資先には海外売上が7割~8割という優良企業が複数組み込まれていて、ファンド全体でも50%以上の売り上げが海外であり、世界の成長をIN・VESTしています。2009年設定時の1億2千万円が、つみたて投資の「お仲間」の日本全国からの参画と投資先企業の価値創造のおかげで、直近では700億円程度で推移するように成長しました。
15年では、まだまだ「持続的な価値創造」とは言えず、途上です。しかし、このようにインデックス型運用に長期的に負けない日本型アクティブ型運用があり得ることは他社の事例からも立証できます。我々は決してアクティブ型運用の「全体」や「平均」ではなく、それを目指している訳でもないので、そもそも、「全体」や「平均」の存在でしかないインデックス型運用と直接比較することにも課題があります。
また、株式インデックスは一般個人を念頭において設計されたものではありませんが、コモンズ30ファンドは、一般個人、特に初心者が株式投資をすることを念頭に設計されています。その設計に最も大事なことは、利益を還元することは言うまでもありませんが、「自分の大切なお金を何に使って投資をしている」という実感も不可欠だと考えました。
一昔前の日本の投資信託の問題点は、まずは売ることを念頭に、業者の稼ぎが多い複雑な商品を一般個人向けに勧誘し、顧客の理解を優先してこなかったことです。極めてシンプルな設計である株式投資信託ですら、情報開示は投資先上位のみに限るのが一般的なところ、コモンズ30ファンドは投資先の全銘柄を情報開示しています。
全銘柄を情報開示することによって、投資先30社のそれぞれがいかに価値創造に取り組んでいるかといことを一般個人にも可視化して実感していただけるように企業との「対話の場」を設けることはコモンズ30ファンドのDNAに組み込まれています。30社とは対話できますが、300社とは無理です。
また、日本人だからこそ、日本企業との対話の関係が築け、応援することができます。「対話の場」は投資先企業に留まらず、よりよい社会を実現させる志を持って自ら立ち上がっている社会起業家も含み、コモンズ30ファンド設定以来彼らの応援を実施しています。対話は互いの学びが多く、面白く、楽しいです。
インデックス型投資の喜怒哀楽は「価格」だけです。価格は当然ながら可視化できるわけで、合理的な価値創造に見えます。ただ、それは錯覚です。インデックス型投資は価格の水準だけを追っているMe(自分)ことだけであり、自分のおカネがどのようにWe(他へ)の価値創造へとつながっているかという視点が全くありません。インデックスと「対話」できる訳もなく、自分が価値創造に参画して応援している意識も生じません。投資は機能的な合理性だけでなく、もっと学びが多く、面白く、楽しく、意味あるものです。
投資信託を購入するということは投資先の企業の間接的な株主になっています。私は「会社は株主のモノ」は不毛な論争だと思います。仮に自分のモノだったとしても、それが価値を創っていなければ意味ないし、価値を創れと迫ったとしても、株主は財務的資本を提供しているだけです。自分たちでは価値を創っていません。価値を創る担い手は会社です。
そして、会社は財務的な株式資本というインプットだけでは価値を創造することはできず、人的資本というインプットと合わせて価値創造しています。株主資本は「おカネ」という意味では色が無いですが、人的資本の色彩は豊富であり、その多様性からそれぞれの会社の個性、価値創造が生じます。それぞれの会社の個性や価値創造が見えることも、学びが多く、面白く、楽しいです。
また個人が会社に勤める理由とは、給料を稼ぎ生計を立てる、つまり、おカネのためという合理性があります。ただ、おカネのためだけに働いていると胸を張る人はそれほど多くは無いでしょう。その会社が目指す価値、そしてそこで働いている同僚に協働し、その創造の一員として自分の参画の意味合いを見出して、その会社で働くことが面白いと思っているからではないでしょうか。「資産運用立国」の要である投資も同じです。投資はおカネを稼ぐためです。ただ、そこには面白味も必要です。
我々の日常の消費において合理性を賢く求めるだけであれば、その製品の機能を最も安く手に入れるだけで十分です。売り手も、その機能を提供する単一的な製品を最も安く提供するだけの競争になります。何にも色彩や味わいがない消費と業界になります。ただただメガ・ディスカウントショップしかない世の中が消費者の本位とは言えません。ということは売り手が、中身が良くわからなくても一番安いものを提供するということは顧客本位ではありません。
それぞれの顧客本位に応えようしているからこそ、小売は様々な大・小、大衆・こだわりの多様性が存在している業界です。金融も同じような意識が必要ではないでしょうか。なぜ、これほど財源(おカネ)がダントツに豊富なのに、「資産運用立国」である日本の金融業界では世界でのニッチでも良いからダントツな存在である、と胸を張ることも想像できなくなった実態に胸に手を当てて考えるべきでしょう。
今回のレターは、かなり長文になってしまい、恐縮です。締めくくります。私は合理性を否定している訳ではありません。
「つみたて投資」を推す理由は、時間軸のリスク分散という合理性です。毎月定額が自身の銀行口座から自動的に買い付けられます。したがって、長い年月をかけて、対象投資信託の基準価額(値段)が下がれば口数(量)をもっとたくさん買えて、上がると少なくしか買いません。当たり前のことですが、仮に基準価額が20%目減りしたら、同じ購入金額で、口数が20%多く買えます。
このように継続すれば株式市場の上げ下げに気にすることなく、誰でも、ゆっくりと、しっかりと資産形成できるのが「つみたて投資」の特長です。自分は「つみたて投資」を初めてから四半世紀ぐらいですが、その間にはITバブルの崩壊、リーマン・ショック、3.11など色々な出来事で株式市場の乱高下を体験しましたが、「継続は力なり」を実感しています。人生100年時代の日本では、70歳になっても、30年投資が可能なのです。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://bit.ly/3uM0qwl)
「渋沢栄一訓言集」国家と社会
国家を進め、国家を強くせんと欲するからは、
五歩十歩の進みを持って、小成に安んじてはならない。
他の列強と拮抗する程度まで、奮進せぬばならない。
政府や企業が「五歩十歩の進みを持つ」ことは当然のことです。それに加え、日本人の総人口の全員が、新NISAという制度を活用して、つみたて投資を通じて「五歩十歩の進みを持て」ば、日本の存在感が世界で最強になることに間違いありません。
「渋沢栄一訓言集」国家と社会
人は孤立して生存する能わずと言うは、
換言すれば共同が必要であるという意味である。
日本の株式市場の「全体」に投資することについては否定的な考えを上記本文に書きましたが、日本人の「全体」が新NISAを活用することには大いに期待しています。栄一が示すように人はMEという孤立した存在では何も大してできず、共同というWEによって本来の力を発揮できるからです。
謹白
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配信元:NTTデータエービック
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