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第45回「大変革期の甲辰の主役に期待すべきは企業」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第45回のテーマは「大変革期の甲辰の主役に期待すべきは企業」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
振り返ると去年は激動の一年でした。世界各地での大地震や火山噴火、豪雨による大洪水や干ばつによる山火事など天災を通じて地球は人類に警告を鳴らしています。一方で悲劇的な人災もかつての歴史の記憶から呼び戻されました。ロシアのウクライナ侵攻が続いている最中に、ガザ地区のハマスの卑劣なテロ行為に対し、イスラエル軍が大規模な反撃で報復し、平凡な生活とより良い未来を抱く数多くの市民と子供たちが殺害されています。
このような惨事を平和的な解決に導く役割は政治やジャーナリズムが担うべきですが、実態はどうでしょう。民主主義の理想を建国精神とする米国では、アメリカ史上初めて大統領経験者が裁判で起訴され、その被告人本人が再び次期大統領のトップ候補になっており、まるでチープなテレビのリアリティショーが展開されています。
このような民主主義の禍において、2024年の世界では米大統領選挙に留まらず、台湾総選挙、インドネシア大統領選挙、ロシア大統領選挙、韓国総選挙などが相次ぎます。中国の習近平体制では李克強前首相の「急死」、外相、国防相、軍トップの交代など政治的マグマの高まりを感じます。
一方、今年9月に自民党総裁の任期満了となる日本では、渦を巻いている世界情勢において、本来総理大臣が腰を据えて世界における日本の存在感を高めるべき極めて重要な局面にもかかわらず、重箱の隅を楊枝でほじくるような報道ばかりが目立ち、世論を誘導しています。政局を煽ることだけがジャーナリズムの存在意義になれば、それは民主主義の終焉と言わざるを得ません。
ただ、派閥という、恐らく日本に民主主義が導入されて以来存在している”常識“に抜本的なメスを入れるということには、ジャーナリズムの意義を感じます。派閥は国の政策を共に支え合うグループとして有権者の期待に応える存在意義はあると思いますが、支援者から集めたカネの再配分を派閥独自の政治活動に利用する恣意的な慣習を改め、党全体の活動に用いることが政党の役割だと徹底すべきではないでしょうか。
日本は史上最大の激動期に入っていると確信しています。日々あまり感じることはないかもしれませんが、300年程の時代の流れで観測すれば、これからのたった10年~30年で日本の社会構造が、かつてないほど大変動することは明らかです。昭和のピラミッド型人口動態が、平成のひょうたん型から、令和の逆ピラミッド型へと一気に突入しています。
これほどの大規模・急速な人口動態的ビックバンは、人類の歴史で初めてかもしれません。赤ちゃんが一気に急増する貧しい社会と、生涯かけて積み重ねた経験・資産および票を持つ大人たちが一気に急減する豊かな社会は、言うまでも無く全く異なります。今までの政治・社会体制で持続できる訳が無い未来が急速に訪れてきます。
さて、このような時代背景において、私たちは2024年に何を期待すべきでしょうか。元日から震災、飛行機事故が相次ぎ、今年の「甲辰」が平穏になる兆しは全くありません。直近の「甲辰」であった1964年も同様でした。当時は東京オリンピックが象徴する高度成長時代で、自民党臨時大会で池田勇人が佐藤栄作と藤山愛一郎を破って総裁に三選します。ただ、大金が派閥間で動いたと言われ、その後に池田勇人首相が癌治療のため辞職、第一次佐藤栄作内閣が誕生しました。
1964年の世界では、南ベトナムでクーデター、そして北ベトナムでは米駆逐艦が攻撃され、前年のケネディ大統領暗殺で大統領に就任したジョンソンが選挙で当選しますが、ベトナム戦争はその後、泥沼化します。ケネディ前大統領と対抗したソ連のフルシチョフ第一書記兼首相が解任され、ブレジネフが就任します。一方、中東ではパレスチナ解放機構(PLO)が設立されたことで、イスラエルは神経を尖らし武力による脅威の排除の機会を狙うようになりました。
どうやら今回の甲辰の2024年も動乱が予想され、政治には期待できそうありません。そういう意味で、我々は期待を寄せるべきところは政治ではなく、民間の力ではないでしょうか。つまり、企業です。世界の情勢や時代の変化にもっとも機敏に反応する存在が企業です。なぜなら、どのような時代環境においても、収入・利益を確保しなければ持続できない宿命を背負っているからです。
今年の局面で特に重要なことは、日経平均の34年ぶりの高値に手を叩いて喜ぶことよりも、その企業の株式市場における価格を支える企業価値に着眼することです。動乱の時代でも、きちんと企業価値を創造できるか。その価値の正当性を株式市場や世間に対して可視化できるか。これが、時代を乗り越えるためのカギだと思います。
企業の非財務的な「見えない価値」の可視化については、岸田総理が主導された新しい資本主義実現会議が提唱した、人的資本およびインパクト(リスク調整後の利益最大化の軸&課題解決の価値最大化の軸)が展開の窓口を開いてくれました。同実現会議で討議した「資産運用立国」が促した東京証券取引所の「PBR1.0割れ問題」の検討も、企業の価値創造の可視化に重要です。
平たく言えば、PBR(株価純資産倍率)の「B」である純資産は企業の財務的な「見える価値」であり、「P」は企業の市場価格に当たり、PBRが1.0以上ということは市場が企業の財務的な価値と比べて期待値が高く、1.0以下ということは企業の財務的な価値を割り引いているということです。
株式市場の参加者が成果を期待する時間軸は様々ですが、企業が「ゴーイング・コンサーン」(将来にわたって継続していく前提を継続企業の前提)であれば、四半期や単年度を測るROE(自己資本利益率)よりも長い期間の期待値を現在価値化していると言えるでしょう。すなわち「P」が期待しているのは1)長期的な収入・利益から生じる潤沢なキャッシュフロー、そして2)、その2)を支える企業の非財務的な「見えない価値」の可視化です。
特に、PBR1.0割れ上場企業にとっては、当社の「見えない価値」の可視化は死活課題になります。株式市場の総意としては、その企業で懸命に働く人たちの価値創造に期待しておらず、むしろ価値を棄損しているという極めて厳しい見方だからです。市場の価値判断が間違っていると確信のある企業であれば、自社株買いなど財務的テクニックだけに頼ることなく、自社の「見えない価値」を可視化する画期的な戦略を立てて、実施すべきです。
2024年に、より多くの日本企業の「見えない価値」の可視化を通じて、自ら未来を拓くことに期待を寄せています。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://bit.ly/3uM0qwl)
「訓言集」実業と経済
その人、その国の生存上最も必要なるは実業である。
この実業の力を強くするのが、
すなわち国の富を強くする所以である。
日本は新しい時代に入りました。動乱が継続する世界情勢で日本の存在感を高めるためには、企業が世界から、特にグローバルサウスからの、期待にしっかりと応えなければならないという気迫と実践が不可欠です。
「論語講義」先進第十一 2
「子曰く、我に陳・蔡に従いし者は、皆門に及ばざるなり。徳行には顔淵・閔子騫・冉伯牛・仲弓。言語には宰我・子貢。政事には冉有・季路。文学には子游・子夏。」
孔子陳蔡の厄、従事者大いに心配し、
この先どうなることかと厄ぶんだのであるが、
孔子は泰然自若として、少しも動ぜず、
平気で絃歌講誦せられていた。
政治的生命が問われている如き報道の世論形成の中、岸田総理の持ち味である誠実さと胆力で任務を全うしていただきたいです。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他
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配信元:NTTデータエービック
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