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みんかぶプレミアムとはシブサワ・レター ~こぼれ話~
第53回「次の政権が落としてはならないバトン ”資産運用立国”」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第53回のテーマは「次の政権が落としてはならないバトン ”資産運用立国”」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
私の父親、芳昭は今月95歳になります。今年86歳になる母親、喜枝子と共に35年以上アメリカ中西部で暮らしていましたが、数年前に妹たちが暮らす東海岸のプロヴィデンス市に引っ越しました。毎週恒例のZOOMコールでは、父の耳が遠くなり動作がゆっくりになっている姿が見えますが、スクリーン越しの父の髪の毛はフサフサで顔の肌はツヤツヤ。「痛いところ、どこも無いんだよね。皆、元気にしていますか。」が毎週の決まり文句です。
父は16歳目前で終戦を迎えました。それまで日本が負ける訳が無いと言っていた大人たちの態度が日本政府批判にコロッと翻った姿、大きなアメリカ人たちが乗る大きなジープの往来を目にした少年は、日本が勝てる訳がなかったと思ったようです。
日本とアメリカが戦争をしたのは、きちんとコミュニケーションを取れていなかったからだ。いつか、この大きなアメリカ人と対等に仕事をしたい。少年は、このような将来の夢を抱きました。
若き父は英語を一生懸命勉強したと聞いています。色々な寄り道もあり、同年代より四年遅れで東京外国語大学に入学。アメリカで仕事をしたいという目標達成のために旧東京銀行に入行。しかしながら、「シブサワはすでに英語ができるから」という理由で、アメリカ赴任になったのは同期では後回しで、なかなか希望が叶わなかったようです。
ようやく1968年に初めてアメリカの地を踏んでからは、私が高校・大学生だった2年間に一時帰国しただけで、生活の拠点はずっとアメリカです。父は自分なりのアメリカン・ドリームを掴んだ男です。
アメリカ生活と言っても、モーレツ・サラリーマン時代でしたから、平日は仕事、週末はお付き合いのゴルフなどで不在のときが多く、家で顔を合わせるのはお客さんを家に招いている時といった具合でした。ただ、テキサス州ヒューストン時代には、(仕事で疲れていたと思いますが)妹たちと一緒に夜釣りに連れてもらったり、道路際の入江で引き網をした時には大きなエビやカニをたくさん捕まえた、など懐かしい思い出もたくさんあります。
一方、「僕が試合に行くと健のチームが負けるから」と少年野球の送り迎えはいつも母でした。たぶん、野球には関心が無かったのだと思います。また私の学校成績や進学・就職の進路について、細かく口を出すことは一切ありませんでした。今の時代に父親に求められている理想像と比べると放任だったかもしれません。
ただ、いつ頃だったか、何についてかの話だったか覚えていませんが、「誇り高く思う」とうれしそうな笑顔で言ってくれた一言は、自分の意識に今でも刻み込まれています。日本の窮屈な暮らしよりも、米国で伸び伸びと仕事して生活したいという父の子として生まれ育ったことで、今の自分があることは間違いないです。感謝しかありません。
父は戦争の厳しい時代を少年として体験しましたが、現役社会人としては「上を向いて歩こう」という日本の高度成長期の体験に恵まれた世代です。
一方、私は大学から現役時代初期の10年弱は日本が勢いを見せていたバブル期でしたが、その後「失われた時代」が到来。その間に結婚、家族を養いました。
そして息子たちの日常生活は、彼らの祖父が同じ年頃の時代と比べると著しく豊かになりましたが、目線が定まらず足踏みしている日本しか知りません。しかしながら、日本はやっと新しい時代に入ってきたという実感が私にはあります。息子たち世代がつくる日本と世の中です。
父の時代の豊かさとは、サラリーマンとして一生懸命に働き、給料日に「ビフテキ」を食べることで満足し、社会と会社の成長と共に自分の生活基盤を形成することでした。仕事で稼いだ給与で生計を立てて、余るお金は貯金することが善とされていた時代です。
1963年に導入された「マル優」(少額貯蓄非課税制度)は金利収入の非課税が適用され、「株をやる」ことは資産形成でなく、金持ちの道楽という価値観が定着していた時代です。もし、あの時代から日本政府が国民に対して貯蓄(貯金)だけでなく、日本の経済成長から報われる株式投資による資産形成を積極的に推進したら、現在の家計金融資産の総額の2200兆円は数倍規模になっていたでしょう。
帰国子女であった私は、父が体験した日本企業の新卒一括採用・年功序列・終身雇用の成功モデルのレールからは外れていました。テキサス大学を卒業、日本に帰国し国際関係の財団法人に勤め始めた頃に、親から自立することも考えなければと、個人向けの金融入門本を購読しましたが「投資信託」など難しい言葉が並んでいて、すぐに断念。
またMBAを取得した20代後半から「金融のプロ」として身を立て始めていましたが、債券・為替分野の仕事だったので、株式投資とは無縁でした。自分自身が初めて株式を購入したのは私が33歳になったとき。その時の理由は、転職した会社の同僚が皆しているし、私も儲かるかもしれない。つまり、「株をやる」感覚でした。特に長期的な資産形成の一環として考えていたわけではありませんでした。
株式が資産形成の対象になることに自分自身が目覚めたのは数年後の39歳のとき。前回のレターでもご紹介しましたが、自分の長男が生まれたことがきっかけでした。息子たちの将来の応援資金のため、幼い子たちの成長とともに成長性が期待できる資産形成は、貯金を積み立てることよりも、株式投資信託を積み立てた方が理に適うと思い立ったからです。
息子たちも現役の世代へと成長しています。彼らの時代は祖父や父と異なる新しい時代です。「成長」が問われている時代です。ただ、彼らは自分なりに成長しなければならない。そして、自ら資産も成長させなければならない。まさに、岸田政権の政策方針である「新しい資本主義」が打ち出した「資産運用立国」の主役です。
先月末、官邸で開催された「資産運用立国と日本金融市場の魅力向上に関する会合」に参加しました。報道陣にオープンした会合で大勢が取材に駆けつけていましたが、台風被害の報道で、主要メディアではほとんど取り上げられませんでした。官邸で岸田総理に向き合って提言できる最後の機会だったので、ちょっと寂しく思いました。
https://urldefense.com/v3/__https://youtu.be/rU887-MQiyg?si=p3GRNchrBhtYQ-M___;!!GCTRfqYYOYGmgK_z!6GDhhtP5v3CE7xDkXh960w5DfLW2AtIqy2Qi3zfDJyh-8UeT_2eDSmq6T0srpESMlc0R7vwV1K4WBkUDQgGMP5dhX-dgWA$
参加者各自のコメントは英語で、「新しい資本主義資本実現会議」と同様、3分に限られました。当日の議事録などが公開される予定がないと思いますので、コメントの日本語訳を以下に掲載します。
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岸田首相のリーダーシップの下で設置された「新しい資本主義実現会議」のメンバーとして参画できたことは大変光栄です。現在、資本主義は環境破壊、社会の不平等、さらには紛争や戦争の原因であると多くからの批判、時には怒りの対象までとなっています。その中、岸田総理のビジョンである外務不経済を取り込む新しい時代の資本主義に賛同し称賛します。
「日本資本主義の父」として知られ、現在新一万円札に描かれている私の高祖父である渋沢栄一が提唱した日本における資本主義の原点と同様に、新しい資本主義は人的資本に焦点を当てました。「人への投資」は資産運用立国という政策方針へとつながり、それが(「少額投資非課税制度」である)NISA改革にも発展しました。
この政策施行の意義は、すでに裕福な人々に減税優遇を与えることではなく、現役世代や若手世代がこれからの自身のキャリア形成と併せて長期的な個人資産を形成するのを促進するための優遇です。
新NISAの改正により、インデックスファンドという形で資金の海外流出を招いただけだという批判もあります。 しかし、成長を求める投資を個人が成長性ある国外へと資産配分することは合理的です。そのようにして長期的に個人資産を形成できるからです。
しかし、インデックスファンドには見過ごしてならない課題があります。多くの人々が見ているのは「価格」だけで、個々の企業の「価値」の創造が見えていない、あるいは気にしていないことが多いという現状です。
企業の価格(株価)だけを見ていては相場が崩れると不安になります。 しかし、企業の価値に納得しているのであれば、株式市場の暴落とは、その価値をより低い価格でより多く購入できる機会であり、面白い展開になります。
したがって、NISA制度の改正と共に設立されたJ-FLEC(金融経済教育推進機構)の役割は極めて重要です。価格形成の知識だけではなく、持続可能な価値の創造への理解を高めるべきです。
また新NISAに改善すべき重要な問題点は、1機関のみしか口座開設が認められていない制度設計です。この制限により、オンライン機能を備えている大手機関が圧倒的に有利となる一方、顧客と対面でのやり取りに重要な役割を果たしている地方銀行など他の小規模金融機関が不利な立場に追いやられています。
最近ESG は、米国だけでなく欧州でも多くの人から敬遠されるようになってしまいました。ただ日本ではサスティナブル・ファイナンスに関して政治的な隔たりはありません。新しい資本主義実現会議ではインパクト投資やインパクト会計という新しい価値判断の尺度が提示されて、スタートアップから大企業や大手金融機関に至るまで、その学び、実践することに強い関心が高まっています。
従来のリスクとリターンという二次元の価値表現に加え、環境や社会の課題に対する解決策の意図を三次元の軸として加えることで、持続可能な価値創造をよりしっかりと表現することが狙いです。
日本の次期政権は、サスティナブル・ファイナンスという重要なバトンをしっかりと受け取って、走り続けるよう切望いたします。
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□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://urldefense.com/v3/__https://bit.ly/3uM0qwl__;!!GCTRfqYYOYGmgK_z!6GDhhtP5v3CE7xDkXh960w5DfLW2AtIqy2Qi3zfDJyh-8UeT_2eDSmq6T0srpESMlc0R7vwV1K4WBkUDQgGMP5dQ94aHkw$ )
「論語と算盤」論語と算盤は甚だ遠くして甚だ近いもの
大なる慾望をもって
利殖を図ることに充分でないものは、
決して進むものではない。
正しい道理の富でなければ
その富は完全に永続することができない。
渋沢栄一は欲望や利殖を否定してはおらず、むしろ大いに求めるべきと考えました。ただ、その過程では「正しい道理」の重要性を訴えました。「道理」とは何か。「正しい」とは何か。これには議論の余地はあります。ただ、自分の利益のことしか考えないということではなさそうです。
「完全に永続すること」とは持続可能性、つまり、サスティナブルな状態を示しています。そのように考えると、サスティナブル・ファイナンスとは課題解決を求める「正しい道理」の金融であると言えます。国民の資産形成を促す資産運用立国の土壌となるべき考えです。
「論語講義」顔淵第十二7 子貢問政章
世界の上にても、もっとも重んずべきは信である。
信を守らねばたちまち失敗す。
岸田政権は日本の新しい時代の展開のために必要な内外政策を次々と打ち出した実績があることは間違いありません。ただ、国民からの信頼が高まらないと政権は継続できないという難しい現実があることも確かです。
一方、各報道機関の政治部やコメンテーターなどが政局を煽るばかりで、政策の分析を軽んじていれば、歪んだ実態しか国民には見えません。報道機関も信も守ることの本質とは何かという自らの問いかけ心得と実行が大事ではないでしょうか。ただただ、目前の視聴率を稼ぐ目線だけでは信を守っていると言えないはずです。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他
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□シブサワ・レター~こぼれ話~第52回「株式市場大暴落でワクワクする心得」
配信元:NTTデータエービック
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