日本の個人投資家は、
ESG投資や
SDGsに対する関心が低いと言われていましたが、コロナショック後は、関連ファンドの大型の新規設定が相次ぎ、注目が一気に高まっています。
日本株それも中小型株で
SDGs・・・興味は尽きません。
今回は、「
いちよしSDGs中小型株ファンド」の運用会社である、いちよしアセットマネジメント株式会社様にお伺いし、ファンド設定の背景やファンド特徴等についてお聞きしました。
インタビューにお答えいただいたのは、いちよしアセットマネジメント株式会社 運用部 高橋 佑輔様です。
ファンド設定の背景 なぜ中小型株でSDGsなのか
-まず初めに、「いちよしSDGs中小型株ファンド」の設定の経緯を教えて下さい。
弊社を含むいちよし証券グループは、長年に渡り、日本の中小型・新興市場を中心とした成長株投資に注力しています。
加えて、
SDGsについても力を入れ始めています。
2006年に、いちよし証券の企業理念「いちよしクレド」を制定しました。また「いちよしのクレド」の実現のために取り組むべき課題を整理し、
SDGsが提示する社会の課題解決に向けてサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を選定しています。
まず、昨年、2019年10月に機関投資家向けの私募投信を設定し、2020年8月に個人投資家の皆様向けに公募投信を設定いたしました。
個人の方がSDGsに参加、応援しようと思っても、どの企業に投資したらいいかよく分からないのでは、と思います。
そこで、我々が投資家の方々に代わって、企業を選定しパッケージ化、つまり投資信託として提供しようということです。
-SDGsと中小型株投資が、御社にとっては自然と一つになるのですね。
ただやはり、ESGやSDGsへの取り組みは、大企業、つまり大型株のイメージが強いのですが。
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も、ESG投資をしていますが、投資先は大型株中心になっています。
中小型企業のESG、SDGsの取り組みは、なかなか見てもらえないし、外部のESG評価機関の評価も中小型企業に対しては十分ではないように思います。日頃、取材している企業の中には、ESGやSDGsに取り組んでいても、まだ認知されていないことが多く、大きなギャップが存在しているのが現状です。
我々は、中小型企業に特化して調査と投資を行ってきましたので、中小型企業の取り組みを認知してもらうよう、運用者として、もっと発信していく必要があるのではないかと考えたことがファンド設定の経緯の一つでもあります。
また、投資先の企業側についてですが、規模の大きな企業は、ESG、SDGsの取り組みも専任部署を設けて積極的に取り組んでいるところが多い一方で、中小型企業については、まだそこまで意識が高まっていないところも見受けられるのが実情です。投資家の方々に、まだ知られていない中小型企業の活動を紹介していくことも大切ですが、一方向ではなく双方向、投資家にも投資先の企業にも、ESG、SDGsの意識を高めていく活動が運用会社の重要な使命だと考えています。そこで、エンゲージメント推進部という部署を新たに立ち上げ、企業に対して、ESG、SDGsへの積極的な取り組みを促す活動も行っています。
-SDGsと並んで、近年注目が高まっているのがESG投資ですが、なぜ、ESGではなくSDGsなのでしょう?
ESG、またはSRIというと、世の中に良いことをするイメージが強いと思います。
それでは、世の中に良いことをすると業績に結び付くのかというと、なかなか難しい面もあり、過去、そういったファンドが出てきても投資家の期待に見合うパフォーマンスではなかったこともあったかと思います。
一方、SDGsは、2030年に世界が要求している項目が決まっているので、それに向かって事業を通して取り組んでいる企業に投資をしようというのが我々の考え方です。
世の中の需要があるので、事業を通してそれに答えていけば、利益が上がり、株価も上がっていくことが期待できます。
つまりの事業の取り組みのところで、投資する企業を選別していこうということで、ESGではなくSDGsを採用いたしました。
運用プロセスと注目銘柄
-それでは、運用プロセスについて教えて下さい。
まず、グループ会社のいちよし経済研究所の調査対象銘柄群の中から、いちよしアセットマネジメントが定める「ESGスコア」等で、上位半分程度を抽出します。
このプロセスは、どちらかというとネガティブ・スクリーニングのイメージです。業績が好調な企業であっても、経営戦略において
ESGや
SDGsに対する優先順位が低い場合は、当ファンドの投資対象からは除外します。
次に、いちよし経済研究所が、
SDGs達成に貢献できる技術・サービスを提供する銘柄を厳選します。
ESGウォッシュという言葉があるように、
ESGへの取り組みを公表しているものの、中身が伴っていないようなケースもあります。最初のプロセスは、定量的なスクリーニングなので、そういった企業も含まれている可能性があります。
そこで、継続的にフォローしているいちよし経済研究所のアナリストが、経営者の方々とディスカッションをする中で確認をしていくのです。
-定量と定性の2段階でフィルターにかけるのですね。
そのとおりです。ただここまでは、業績や株価などは考慮せず、あくまで取り組みに対するスクリーニングです。
「
いちよしSDGs中小型株ファンド」は、
SDGsを謳っていますが、あくまでアクティブファンドなので、できるだけ投資家の方々にリターンを提供していかなければならないという命題からは逃れられません。
従って、次のプロセスでは、ファンダメンタルズ分析等で、株価の上昇ポテンシャルを判断して、投資銘柄候補群を選定します。投資銘柄候補群は、100社弱といったところでしょうか。
さらに、候補銘柄群からファンドマネージャーが流動性、投資タイミングを考慮し、約40~50銘柄でポートフォリオを構築します。
-ポートフォリオを構成するのは、40銘柄~50銘柄程度とのことですが、比較的少ないように感じますが。
運用のプロセスとして投資する企業を厳選することは重要であることは言うまでもありませんが、当ファンドでは、その後をより重要視しており、投資銘柄数は少なめとなっています。
あまり銘柄数が多いと、投資している企業に対する
ESG、
SDGsの取り組みを促す働きかけが十分に行えないので、ポートフォリオを構成する企業をより絞り込み、
ESGや
SDGsの取り組みについて対話する時間を多くとろうと考えています。
-SDGsで注目している企業を教えて下さい。
オイシックス・ラ・大地(3182)
野菜などのEC販売を行っている企業です。
主力製品「Kit Oisix」は、家庭で料理を作るときの食材がパックにされており、各食材をスーパー等で買ってくる場合と比べて、廃棄する食材の量が圧倒的に少なくなります。(食品ロス削減)
コロナ過で幼稚園や小学校が休校になり、働いているお母さん、お父さんが出来るだけ手間をかけずに、お子さんに料理を作ってあげなければならないといった、状況になった昨年3月には、需要が急増し、新規会員の申し込みを一時停止したほどです。
アサヒホールディングス(5857)
貴金属リサイクルと産業廃棄物処理を行う企業です。
事業を通じた貴金属をはじめとする資源の再製品化で、限りある資源の枯渇の問題解決に貢献しています。
特徴ある取り組みの一例として、虫歯治療の詰め物のリサイクルがあります。歯の詰め物は、貴金属の合金で出来ていますが、永続的なものではないので、一定の期間、経過すると取り換える必要があります。それまで使っていいた詰め物は、捨てられることになるのですが、アサヒホールディングスは、長い年月をかけて、使用済の詰め物に含まれる貴金属を全国の歯医者さんから集めるネットワークを作っています。
このようにリサイクルのルートを強固にしているのが同社の魅力であると考えています。
サカタインクス(4633)
ボタニカルインキという植物由来のインクを作っています。
今度、コンビニでパンを買ったときに、裏を見て下さい。ボタニカルインキを示すマークが付いていると思います。
大手コンビニチェーンなどでは、大量の商品を販売することによる、環境負荷を考えないといけないフェーズに入っています。そのような中で、環境負荷を抑えるためにボタニカルインキを採用する動きが強まっています。従来の石油由来のインクに比べるとコストは高くなりますが、社会にアピールしたいとか、環境負荷を抑えたいという企業のニーズに答えることで、売り上げを伸ばしているのです。
インクメーカーといえば、石油由来の製品を作っているので、一見ネガティブに見えますが、実は
ESGに貢献しているギャップ銘柄の一つと言えます。
-ESG、SDGsと事業内容が直結していて分かり易いですね。
大企業は、事業が多岐にわたりますが、中小型企業の多くは単一事業なので分かり易いのです。
ただ、知名度が低く、常日頃、目にしている企業ではないので、「この会社って何をしているんだろう?」つまり、よく分からずに投資をせざるを得ない状況が続いているのではないかと思います。
ESG、
SDGsというメガネを通してみていけば、それらの企業が、社会とどの様に繋がっているかを、改めて知るきっかけにもなるのではないでしょうか。
「
いちよしSDGs中小型株ファンド」の月次レポートで、上位組入れ企業の
ESG、
SDGsの取り組みを紹介しております。また、個別に、もう少し詳しく伝えるための資料も作成しておりますので、なんとなく
SDGsとして社会に貢献しているというのではなく、実感を持って、より理解したうえで投資して頂ければと思います。
【インタビュアーより】
インタビューの後、早速コンビニでパンを買って裏のマークを確認しました。ありました、ありました!ボタニカルインキのマーク。
大手コンビニチェーンの環境問題への取り組みは、大企業の活動だけでなく、それを支える中小型企業の製品やサービスがあってこそなんですね。
ESG、
SDGsといえば大企業というのは、単なる思い込みだったようです。
SDGsは、世界全体の目標なので、グローバル型のファンドもいいですが、自分事として考えるために、より身近に感じられる国内株式、さらに中小型株式ファンドへの投資を検討するのもよさそうです。