安定した資産運用に必要な戦略とは?
さて、それでは今後の長期的な資産運用を考えるとき、私たちはどのような戦略を取るべきなのだろうか。
結果論であるが、ここ数年にかけて株式投資は安定的なリターンをもたらした。何も株価上昇が期待できる個別企業を緻密な業績分析をして見つける必要もなかった。たとえば、10年前から日経平均株価やNYダウなどの株価指数に連動する投資信託やETF(上場投資信託)に投資しているだけでもよかったのだ。
しかし、今後もその傾向が続くとは限らない。少なくとも過去の歴史に基づけば、再び株式市場にも冬の時代が訪れることもあるだろう。そのきっかけが今回のような疫病なのか、天変地異、はたまた軍事衝突なのかは分からないが、これから先は何も起こらないと考えるのは現実的ではない。そこで、予期せぬリスクを仕組みで抑制 していかなければならない。
こうした今後の株式市場が含んでいる予期せぬリスクへの対処法は大きく分け「3つ」存在する。その3つの対処法は以下の通りである。
長期投資
積立投資
分散投資
投資家であれば一度は目にしたことがある言葉ではあると思うが、この機会に今一度これら3つの投資の重要性に気づいていただければ幸いだ。
複利を味方につける「長期投資」
資産運用においてリスクを抑制する方法はいくつかある。1つはタイトルにある通り、長期で投資を考えること だ。投資を始めるとついつい株価や金利、為替相場など数字が気になってしまう。それは仕方のないことだが、「今日は利益が増えた」、「前日より何%下がってしまった」など損益と連携して考えるようになると、「いま売れば儲かるから売ってしまおう」というかたちで、結果的に短期的な売買をすることになってしまう。
短期的に売買を繰り返してしまうと、ただの丁半博打のようになってしまい、手数料や税金の存在も考慮すれば、ほとんどの投資家は損を被ることになるだろう。そこで、目先の損益にこだわるのではなく、あくまで10年、20年と長期で投資を考える 必要があるのだ。
また、長期投資であれば複利の力 を借りることもでき効率的に資産運用をする手助けとなるだろう。
高値掴みを避ける「積立投資」
そして、より効果的に長期投資を可能にする仕組みが、感情を排して機械的に投資をする「積立投資 」である。積立投資は、「ドルコスト平均法 」とも呼ばれ、購入タイミングを複数回に分けることで取得価格を平均化できるというものだ。こうすることで、価格が安いときは多く、逆に高いときは少なく買えるというわけである。
現在は非常に便利な世の中になっており、ネット証券であれば一度つみたて投資の設定をしてしまえばおしまいである。
どの投資信託を毎月〇日にいくら買うと設定すれば、その後は相場を見る必要はない 。中には毎日100円という少額から積立投資ができるサービスも存在する。
当然、相場を見るのが好きな人は見ればいいのだが、前述したように相場を見ることで数字の変化に気持ちが動かされ、好ましくない投資行動に繋がってしまう人は、このような仕組みを活用すべきだろう。
リスクを分散させる「分散投資」
さいごにリスクを抑制する3つ目の方法が「分散投資 」である。たとえば、1社の株に全財産を投資したとしよう。仮にその会社が倒産してしまったら、投資したお金はなくなってしまう。
つまり、その会社と一蓮托生になるということだ。そこで、投資先を1社ではなく複数社に分散することで、リスクを抑制するのだ。しかし、「分散」という考え方はこの例のように投資先を増やすだけではない。投資先の資産を株だけではなく、債券や不動産など複数の種類に分散したり、投資先の国・地域を日本だけではなく、欧米や新興国にも振り分ける ということだ。
この10年は株に投資をしておけばそれなりにリターンが取れたということで、この3つ目の「分散」という戦略のなかでも、特に投資資産の種類を分散するという感覚が薄れてしまっている投資家も多いだろう。
3つの投資戦略にあった投資先とは?
新型コロナウイルスが代表するように、2000年以降、世界では年々不確実性が高まっている。不確実性が高まれば高まるほど、投資家は安定性を求める ものだ。
そこで注目されるのが債券 である。株式投資でも高い配当利回りの株を中心に投資していく戦略もあるが、債券投資においては株式投資以上にこの配当収入が重要 となる。
株式市場がここ数年とは逆に下落相場に突入した際、株に比べて値動きが小さい債券が自身のポートフォリオに組み込まれていて、かつ定期的に配当も入ってくるとなると精神的にも救われるだろう。
長期にわたって投資をしたのに、損が出てしまったら困ると思うかもしれないが、投資期間が長くなるほど、定期的に入ってくる配当収入、いわゆるインカムゲインが重要 なのだ。長期に渡りインカムゲインが積み上げられることで、価格変動におけるキャピタルロスの一部が相殺され、結果的には安定的な運用結果へ と繋がっていく。
しかし、金融緩和によって株高がもたらされたと書い前述したが、それと同時に世界から金利が消えてしまっている。下図は日本を含む複数国の10年国債の利回りを比較したものだ。上段は私が運用会社で社会人1年目をはじめた2007年。下段は昨年2020年の数値だ。
出所:Bloombergより作成。
格付は外貨建長期債務格付(S&P)、トルコは5年国債利回り、2007年のブラジルは11月15日。
図を見れば明らかだが、安全性を求めて先進各国の10年債に投資をしても、現在は利回りを確保できない。
その結果、新興国の債券や、S&Pやムーディーズなどの格付機関によってBB格以下の格付けが付与されている債券、つまりハイイールド債への投資をしなくてはいけない。しかし、リスクが高い債券に投資をしてしまうと、ポートフォリオ内でのリスク分散が効果的ではなくなってしまう 。
それではどうすればいいのか。1つの解は米国の債券市場 にある。米国の債券市場は世界の発行残高のうち4割弱を占める巨大市場だ。そして、一言で債券といっても種類も豊富である。米国債や投資適格と呼ばれるBBB格以上の社債もあれば、米政府抵当金庫が発行する住宅ローン担保債券や前出のハイイールド債もある。各債券の特徴をまとめたものが下図である。
出所:Bloomberg、バークレイズ証券提供資料より作成。
米国債:Bloomberg Barclays 米国国債7-10年指数、米ジニーメイ債:Bloomberg Barclaysジニーメイ指数、米投資適格社債:Bloomberg Barclays米国投資適格社債指数、米ハイイールド社債:Bloomberg Barclays米ハイイールド社債指数
このように流動性が比較的高いものだけに限定しつつ、複数の種類の債券を組み合わせることで、リスクを抑制しながら先進国の10年国債よりも高い利回りを得ることも可能 である。
まとめ
この数年は株高傾向にあったが、それに伴い割高感が出始め上値が重くなってきたところで、改めて自身のポートフォリオを見直し債券への投資も組み入れる ことで、リスクを抑制しながら、定期的なインカムゲインを積み上げていき、堅実で長期的な資産運用が実現 されるのだ。
とはいえ、個人投資家が米国の債券へ投資するのはハードルが高いだろう。そのような時は投資信託を活用 することをお勧めしたい。
【執筆者】
株式会社マネネ CEO / 経済アナリスト 森永 康平(もりなが こうへい)
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。
業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。
現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。
著書に『MMTが日本を救う』(宝島社新書)や『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。
日本証券アナリスト協会検定会員。
Twitterは@KoheiMorinaga
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