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みんかぶプレミアムとはシブサワ・レター ~こぼれ話~
第11回「「ウェルビーイングへの声を上げよう!」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第11回のテーマは「ウェルビーイングへの声を上げよう!」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
私事ですが、今月18日に還暦を迎えます。また外資系の金融機関・ファンドの世界から脱サラして起こした会社、シブサワ・アンド・カンパニーの20周年も今月です。会社の登記日は自分の誕生日に近い吉日の3月16日にしました。
後になって気づいたことですが、高祖父の渋沢栄一の誕生日(新暦)と同じ日でした。
40歳で起業するまで栄一の存在は遠いものでしたが、起業をきっかけに本人が残した言葉との「出会い」があり、今では栄一の思想の現代意義を語らない日はありません。不思議な縁を感じます。
20年前は子供ができて家族が増え、私生活でもちょうど変化の時を迎えていました。
当時、赤ん坊の長男を抱きながらふと思いました。「この子が成人になる頃、自分は還暦になっているんだ」と。40歳の自分は、自身の還暦の姿や生活を思い描けませんでした。
しかし、子どもや自分が健康であればその日は必ず訪れるのです。自分はその日のために何も準備していないことを反省し、息子と自分の毎月の積み立て投資を始めました。
これを一つのきっかけとして、日本社会における長期投資の必要性について様々に気づき、そして同志たちとの出会いがありました。2007年11月にシブサワ・アンド・カンパニー社内に「コモンズ」という準備会社を設立、2008年の秋にコモンズ投信と改名し、当局での登録が完了しました。
当時、「論語と算盤」を一緒に勉強していたファンド・マネジャーの友人から「栄一さんと同じようなことをしようとしているんだね」と指摘されました。
そんな身の程しらずなことをしている訳ではないと答えましたが、栄一は日本初の銀行の存在意義を明治初期の日本社会に示すために「一滴一滴の滴が集まれば、大河になる」という表現を用いました。
日本全国から毎月の積立投資の「滴」が寄り集まれば、長期投資の「大河」になるイメージと確かにシンクロしています。
栄一の「大河」は、封建国家であった日本が、一般市民も豊かな生活に恵まれる近代化社会へと変革する原動力となりました。
一方、コモンズ投信は、まだまだ小さな存在で「大河」ではありません。しかし設立時から目指していたことは「今日よりも、よい明日」というビジョンを日本社会とシェアして実現させることでした。
時々、「その『よりよい明日』とは何ですか」と聞かれることがあり、私は「一人ひとりが自分の幸せな生活を送れること」と答えていました。
最近、「ウェルビーイング」という言葉を耳にすることが増えましたが、これがまさに「幸せな生活」ではないでしょうか。当時私は、これを「ウェルネス」と表現していました。
2004年に仲間たちと開催した「金融の匠が考える豊かなライフデザイン」という三部構成のセミナーで、「ビジョン」「ウェルネス」「ウェルス」について語り合いました。
それから17年の年月が経ちましたが、あの時みんなでワクワクしていたことが、ようやく一般的になってきました。「豊かなライフデザイン」とは、まさに「ウェルビーイング」にほかなりません。
金融や資産運用の役割として、「ウェルスの向上」だけではなく「ウェルネス=ウェルビーイングの向上」という「ビジョン」を掲げることが、時代の潮流になりつつあります。
金融=ファイナンスとは何か。それは、融資先・出資先・投資先の有り方を判断するということです。
つまり、VOICE、声を上げることです。「ウェルビーイングの向上」というVOICEを上げている存在に融資・出資・投資をするということは、「そうだね。それは大事だ」というVOICEを返していることになります。
ただ、この世の中で多額なファイナンスのほとんどが機関投資家や年金基金という仲介者の意思決定によって生じています。彼らは仲介的な存在でありますので、その意志決定には受託者の責任が生じます。
よって、新たなVOICEが特に上がらなければ、自らの役割として、かつての時代の「ウェルスの向上」がデフォルトのままになってしまいます。
ただ、そういう意味では、株主や将来の年金受給者がウェルスだけでなく、「ウェルビーイングの向上も」というVOICEを上げれば、機関投資家や年金基金は、それに応える責任が生じます。
そして託された身として適切なリスクを背負う責任も生じます。
「ウェルビーイングの向上」の機会があるからと言って、リスク(不確実性)に目をつぶることは受託者の責任を果たしていると言えません。
そして、「ウェルビーイング」=「幸せ」=「豊かさ」の向上を達成するために重要なのは、「成長」の再定義かもしれません。
GDP、ROE、IRRの否定ではありませんが、数値化できる、モノの成長だけに留まらない新しい定義です。
一方逆に、最近世間の関心が高まっている「脱成長」は、色々な可能性(機会)に目をつぶっていると言えるかもしれません。
「今日よりも、よい明日」を実現させるためには重要なことがあります。それは、我々一人ひとりが、「ウェルビーイングの向上」というVOICEを上げること。
「一滴一滴の滴が集まれば、大河になる。」
ウェルビーイングへのVOICEを皆で上げましょう。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。http://ht.ly/ROYmI)
『論語講義』里仁第四 4
子曰く、苟くも仁に志せば、悪しきこと無きなり
蓋し、人は自分の利益幸福ためにのみ働かず。
他人の利益幸福のために動かねば決して栄えるものではない。
MeからWeへ。「ウェルビーイング」のためには、自分のために動くのではなく、他人のためにも。
『論語講義』里仁第四 13
子曰く、能く礼譲を以て国を為めんか、何か有らん。
能く礼譲を以て国を為めずんば、礼を如何せん。
主張すべき正当の権利はこれ主張するもよけれども、
権利主張の一点張りとなりて
いささか譲り合いもせぬとなれば、
その主著は正義の域を脱して放縦となり、
その極、国なっては弱国を虐待併呑し、
人にあっては貧人を駆使兼併するに至り。
正しい、正当だということも度を過ぎると、思うままに振舞い、わがままになってしまい、みんなの「ウェルビーイング」な生活や世の中につながらないということですね。礼譲とはMeからWeへの視点を持つということでしょう。
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。
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配信元:NTTデータエービック
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