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シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第8回「10兆円研究支援Fの意義」

インタビュー
配信元:NTTデータエービック
著者:渋澤 健
投稿:2020/12/09 09:30
シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第8回「10兆円研究支援Fの意義」

シブサワ・レター ~こぼれ話~
第8回「10兆円 研究支援Fの意義」


日本資本主義の父 渋沢  栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
 

第8回のテーマは「10兆円 研究支援Fの意義」です。

 

 

 

 

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
大学の研究支援ファンドを創設することを政府が検討しているという報道がありました。ファンドの運用益が研究基盤整備の財源になる構想ですが、10兆円のファンド規模を3年目途で目指すという気合いが入っている金額に驚きました。
 
2020年度の国の一般会計の文教科学歳出の5兆5千億円と比べて約二倍の金額なので、当然一年で使い切る支出のような年度予算ではなく、継続的に「積んでおく」性質の資金と考えているのでしょう。
 
大規模ファンドの適切な運営など色々な課題を整理する必要があり、そもそも肝心な大学側からは様々な制約がある資金財源になるのではという警戒心もあります。
ただ、この構想は、これからの日本にとって極めて重要な基盤を構築できる可能性があると思っているので、きちんと制度設計されることに期待しています。
 
民間が既に展開している領域に官製ファンドの存在意義はありません。一方、民間だけではできていない領域に新しい動きを促進することが、官製ファンドの果たすべき役割だと思います。
 
今回の大学研究支援ファンドに期待している、その役割とは「新しい資金と知の流れをつくる担い手を育成するエコシステム」です。
そして、そのエコシステム構築に参考になるのが、米国の「5%ペイアウト・ルール」です。
 
毎年、基金の5%が寄付や助成金で社会に還元されれば、米税制法上「非営利」として認められます。従って、基金の95%を長期的に年率5.3%で運用できれば、その基金は持続的に維持できることになります。
長期的に年率5.3%以上の運用利回りが実現できれば、その基金の規模はむしろ拡大します。
 
複利効果(雪だるま式)が生じる長期投資もカギです。基金が拡大すれば、一定割合で還元される毎年の「ペイアウト」の総額も増えます。
ただ、長期的でも5.3%以上の運用利回りを確保するためには債券投資だけでは無理です。
日本では「元本保証」という呪縛があるために、近年の運用益の実績は微々たるものです。国債の利回りはほぼゼロなので、高利回りという人参をぶら下げている仕組債などに手を出して、表面上では見えないリスクを抱えている大学や公益法人が多いです。
 
米国の「5%ペイアウト」モデルでは基金の長期的な運用収益を求めるために成長性ある株式投資にも配分しています。
また、長期的にコミットできる性質の基金なので流動性リスクへの許容もあり、イノベーションをもたらすベンチャーキャピタルファンドや業界再編を促すバイアウトファンドにも積極的に投資をしています。
 
社会的活動に不可欠な財源を創出すると同時に、産業成長を促す良質なリスク・キャピタルも資本市場に供給する。これが、米国の「5%ペイアウト・ルール」であり、日本社会でもこの考えを応用すべきであると長年、提唱してきました。
 
米国の「5%ペイアウト・ルール」の起源は大学基金の資産運用の改革です。
 
ハーバード大学基金やエール大学基金が日本では注目を浴びますが、大元はCommonfundという、小大学基金を共同運用する非営利の資産運用会社です。
 
1960年代後半に米フォード財団が助成した研究で、当時の大学基金の資産運用は債券利回りの収入だけに頼ると教育・研究費の財源が減少する傾向が問題視され、株式を含む長期投資をトータル・リターン(元本益および金利・配当の再投資)の方針を推進するために設立された共同運用会社です。
 
予算は年度ごとに捻出して使い切るという「フロー型」が慣習となっているマインドセットでは、せっかく確保してある財源の5%しか使えないことに不満があるかもしれません。
 
ただ、今回の大学研究支援ファンド構想で大切なことは、長期的な視野で、資金を使い切るのではなく、次世代にも「ストック」として積み立てる、また、資産運用の成果によって拡大できる財源を創造しているという視点をしっかりと定めることが不可欠です。
 
コロナ禍を経て新政権が発足して、2025年の大阪関西万博に向けて、この官学基金の構想が立ち上がったことは重要で、このタイミングを逃してはなりません。
 
基金の資産運用は温暖化ガス実質ゼロ化等を推進する投資やESGを重視する世界の上場株式投資へ注力すべきでしょう。
サステナブルな世の中を促す成長性ある資金を世界へ供給することで、新しい時代における日本のプレゼンスを高めるMade With Japanにもつながります。
 
持続可能な経済社会には様々な新しいテクノロジーの開発および事業化が不可欠になります。そのような新しいイノベーションを促す世界のベンチャーキャピタル投資にも積極的に取り組むべきでしょう。
 
金銭的な運用収益の還元だけでなく、新しいベンチャーから生じる知的・人的資本のネットワークも日本の大学へとループバックするという協働体制を構築することも大事です。
 
そして、良き社会的インパクトを意図した事業に持続性があるように経済的リターンも求めるというインパクト投資にも投資を振り向け、世界における日本のプレゼンスを高めるべきです。
 
新しい資金と知の循環世界へ。その新しい流れをつくる人材も育む。産官学ファンドであるからこそ形成できるエコシステムであります。
 

□ ■ 付録:「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。http://y.bmd.jp/bm/p/aa/fw.php?d=70&i=ken_shibusawa&c=121&n=15234)

    『論語と算盤』大正維新の覚悟
       ただかかる秩序立ち、
     一般に教育が普及した時代ゆえ、
      普通より少しぐらい進歩し、
 わずかに卓越した意気込をもって事に当たっては、
    とても大勢を動かすことはできない。

コロナ禍を経て万博開催に向かう日本の時代の節目のタイミングです。
産学に新しい資金と知の流れを一気につくる意気込みで日本のプレゼンスを世界で高めることができる官製ファンドとして、しっかりと制度設計していただきたいと切に願っています。
今だからこそ、壮大な航海図を描き、志が高い船員を結集し、大きな帆を揚げて、多くの前例なき未開拓の領域で実績をつくるべきです。
 
  『渋沢栄一 訓言集』学問と教育
      新しき時代には
     新しき人物を養成して
  新しき事物を処理せぬばならない。
 
今回の大学研究支援ファンドを日本の従来の機関投資家や年金基金の経験値やマインドセットで資産運用することに留まれば上手くいかないと思います。
今は新しい時代ですから、新しい人材の養成によって、新しい成功体験をつくらなければなりません。
謹白
 
 

❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健

 

【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。

 

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