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『信託財産留保額の正体』  信託財産留保額のあるファンドを選ぶのもあり?

コラム
配信元:NTTデータ エービック
投稿:
『信託財産留保額の正体』  信託財産留保額のあるファンドを選ぶのもあり?

投信の購入・保有には、コストがかかります。最終的な投資成果は、コストよりもファンドの運用成績が最も大きな決定要素となりますが、やはり、コストは気になるところであり、十分理解した上でファンドを選びたいものです。

投信のコストについて理解を深めるために、コストを負担しているのは、投信の購入・保有者ですが、それを誰が受け取っているのか?について考えてみます。

販売手数料は、投信を販売している金融機関が受け取ります。

信託報酬は、投信会社、販売会社、受託銀行が受け取ります。

その他のコストは、ファンド運営上発生するコストで、信託財産から外部者に支払っています。例えば組入れている株式の売買手数料は証券会社など、監査費費用は監査法人が受け取っています。海外資産に投資するファンドの場合は、海外の保管銀行が保管料を受け取っています。

それでは、換金時に基準価額から差し引かれる「信託財産留保額」は、誰が受け取っているのでしょう?

 

 

信託財産留保額は誰が受け取る?

『信託期間の途中で換金する場合に、ファンド運用の安定性を高めるのと同時に長期に保有する受益者との公平性を確保するためのものです。一種のペナルティ的な位置付けとして、中途解約のために発生する組入銘柄の売却手数料等、諸費用をまかなうためにあてられます。なお、基準価額から控除された信託財産留保額は、信託財産内に留保され、基準価額に反映されます(販売会社、運用会社の収益にはなりません)。』・・・投資信託用語集より

分かりやすくするために、架空のファンドを想定して、具体的に見てみましょう。

純資産総額:200万円
口数:200口
基準価額:10,000円
信託財産留保額:基準価額の0.5%(50円)
保有者しているのは、AさんとBさんでそれぞれ100口ずつ。

このファンドを、Cさんが100口購入、同日にBさんが100口解約したとします。

Bさんの解約代金は、信託財産留保額(50円×100口)を差し引いた99万5000円です。
Cさんの購入代金は、100万円です。

ファンド資産から払い出されるのは、99万5000円で、ファンド資産に算入されるのは、100万円となります。翌日の基準価額を計算してみます。(分かりやすくするため、資金の流出入以外の基準価額への影響は考慮しません)
 

純資産総額は、200万5000円。(200万円-99万5,000円+100万円)
基準価額は、10,025円になります。(200万5,000円÷200口)

このケースでは、基準価額が25円上昇しました。これが「信託財産留保額は、信託財産内に留保され、基準価額に反映される」ということです。ファンドを換金する人が負担した信託財産留保額を、基準価額の上昇という形で、継続して保有している人が受け取ったことになります。

 

信託財産留保額の影響を試算すると・・・

実際にある特定日の信託財産留保額が、目に見える形で基準価額を押し上げるケースは、非常に稀なケースだと思われますが、少しずつ影響が出ているはずです。それが長期にわたれば、どの程度、基準価額を押し上げているか興味のあるところです。

信託報酬やその他費用など、信託財産から支払っている費用は、ファンドの会計上、明らかであり運用報告書等でも確認することができます。しかし、信託財産留保額は、信託財産に留保された金額を運用資産とは別に管理されているのではなく、他の資産と合わせて運用していますので、ファンドとしての総額は分かりません。従って、推測するしかありません。

少々、強引ですが、以下の方法で試算してみました。
・月間の解約額から信託財産留保額の推計値を計算
・月末の残存口値数を基に、月間の基準価額の押し上げ額の推計値を計算

 

 

小型株ファンド(グローイング・アップ)」 

設定・運用:明治安田アセットマネジメント
信託財産留保額:0.5%
信託設定日:2002年8月13日
2019年11月末基準価額:57,736円
設定来の基準価額への影響額:1,186円

小型株ファンド(グローイング・アップ)」は、中・小型株を主要投資対象とするアクティブファンドです。運用期間中、大幅に基準価額が下落する局面もありましたが、上昇局面での値上がりも大きく、基準価額は、57,736円となっています。

投資環境の変化に伴い、解約額も膨らみ、信託財産留保額が及ぼした基準価額への影響は、1,186円という試算結果になりました。2019年11月末に解約したとすると、信託財産留保額は、288円になります。2017年3月以前から保有していると、保有期間に解約した人が負担した信託財産留保額による基準価額への影響の方が大きくなった計算になります。

 


エマージング・ソブリン・オープン(1年決算型)」 

設定・運用:三菱UFJ国際投信
信託財産留保額:0.5%
信託設定日:2003年8月8日
2019年11月末基準価額:27,709円
設定来の基準価額への影響額:441円

エマージング・ソブリン・オープン(1年決算型)」は、新興国が発行するドル建てのソブリン債券を主要投資対象とするファンドです。2008年のリーマンショック時には、大幅に下落しましたが、その後の回復は、比較的早く、2010年4月には、急落前の水準まで戻しています。その頃から、純資産額は、増加傾となり、比較的順調に推移しています。

極端に解約が膨らむことはなかったものの、設定来の信託財産留保額の基準価額への影響は、441円との試算結果となりました。

2019年11月末で解約する場合の、信託財産留保額は、137円です。2012年12月以前から保有していると、保有期間に解約した人が負担した信託財産留保額による基準価額への影響の方が大きくなった計算になります。

 

財産3分法ファンド(不動産・債券・株式)毎月分配型

設定・運用:日興アセットマネジメント
信託財産留保額:0.3%
信託設定日:2003年8月5日
2019年11月末基準価額:4,292円
設定来の基準価額への影響額:49円

財産3分法ファンド(不動産・債券・株式)毎月分配型」は、国内株式、国内REIT、海外債券に分散投資するバランスファンドです。

信託財産留保額は、基準価額の0.3%と、今回、試算した他の2ファンドに比べると低率ですが、その影響は、少しずつではあるものの積み上がっており、設定来で、49円となりました。

当ファンドは、毎月分配型ファンドであり、分配金の影響で2019年11月末の基準価額は、4,292円です。2019年11月末で解約する場合の信託財産留保額は、13円です。2014年2月以前から保有していると、保有期間に解約した人が負担した信託財産留保額による基準価額への影響の方が大きくなった計算になります。

 

塵も積もれば山となる・・・

あくまで試算ベースですが、日々や月次では、影響はなさそうでも、それが長期にわたると決して無視できるレベルではありません。

信託財産留保額が、基準価額に及ぼす影響は、ファンドの純資産額に対してどの程度の解約が出るかによって変わってきます。今回の試算では、運用開始が2002年~2003年と比較的近いファンドを選びましたが、それぞれ大きく異なる結果となっています。

保有期間5年程度なら、ファンド次第だと思われますが、10年以上の保有期間を想定するなら、解約時に負担する信託財産留保額よりも、ファンドを換金する人が負担した信託財産留保額による基準価額の上昇が大きくなる可能性が高いのではないでしょうか?

信託報酬等のコストを意識するなら、信託財産留保額についても、本当の姿を十分に理解しておきたいところです。

 

 

信託財産留保額のあるファンドを選ぶ・・・

保有しているファンドが、運用成績は好調なのに、残高減少しているようなケースを考えてみましょう。

長期で保有するつもりでいても、やはり、同じファンドを持っている人の行動が気になるのではないでしょうか。

同じファンドの保有者であっても、色々な投資スタンスの人がいます。中には長期保有ではなく、ある程度利益を確定させつつ、別のファンドに乗り換える人や、既に保有期間が、想定していた期間になった人もいるでしょう。また、急に資金が入用になってしまい換金に至った人もいるかも知れません。

大切なのは、他の人の行動よりも自分自身の投資目的やスタンスとファンドの運用状況です。長期投資というスタンスとファンドの運用成績に変わりがなければ、他の人の行動に惑わされないようにしたいものです。そして、保有しているファンドが、信託財産留保額がかかるファンドかどうか確認してみましょう。信託財産留保額がかかるファンドであれば、何らかの理由で換金している人から、信託財産留保額を少しずつ受け取っていると思えば、長期保有することのモチベーションが湧いてきます。

投信を選ぶ際、コスト意識の高い人は、信託財産留保額のあるファンドを避けるのが一般的でしょう。しかし、同種のファンドでどちらのファンドを選ぶかを迷った場合は、長期保有が前提なら、信託財産留保額のあるファンドを選ぶのもありではないでしょうか?
 

 

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配信元:NTTデータ エービック

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NTTデータエービック (エヌティーティーデータエービック)

投資信託の評価機関として蓄積した各種データをもとに、みんかぶ投信のニュースやレポート、コラムを執筆しています。また、投信会社を訪問し、話題の投資信託等のインタビュー記事など投資に役立つコンテンツを提供しています。

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