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第16回「地球温暖化という世界的なチャレンジで日本もメダル獲得へ」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第16回のテーマは「地球温暖化という世界的なチャレンジで日本もメダル獲得へ」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
良くも悪くも、今回の東京オリンピックは歴史に名を残すことになるでしょう。
新型コロナウイルスのデルタ変異株の感染が世界で広まる中、オリンピック開催中に東京で感染者が更に増えるのは不可避であり、東京オリンピック開催は見送った方が無難であると私は思っていました。
一方で、重症者や死者数を抑えることは可能との判断での決断だったと思いますので、賛否両論がある中、関係者のご心労はいかばかりかとお察します。多大なご尽力に心より敬意を表します。
改めて考えると、なんとも壮大なロジの組み合わせです。コンディションのピークを迎えている世界の選手にとって、人生最大の勝負のタイミングで競技する場を提供できたことは良かったと思っています。
開催について消極的でありましたが、決行するのであれば、世界中からの選手を温かく歓迎し、健闘を祈り、良い思い出とともに帰国する選手を見送ることが我々日本人として大事なことであると考えておりました。
来日した外国人選手らがSNSで投稿している内容からは、日本人の多くのボランティアの方々が、まさにこの精神で彼らに接していた様子が伺えます。同じ日本人として誇らしく、素晴らしいと思いました。
また、やはりオリンピックには様々なドラマがあります。競技中の本編はもちろんのこと、競技場外の逸話も少なくありません。
例えば、メッセージ性がちぐはぐで一般的には評価が高いとは言えなかった開会式でも、シリアの紛争下で生き別れになっていた兄弟が、一人はシリア代表選手として、もう一人は難民選手団として再会できたという感動的なシーンがありました。
長年の政治的な事情で、国際大会では「チャイニーズタイペイ」という名でしか出場できなかった台湾が、「チ」ではなく、「タ」の国々に挟まれて出場した計らいにも感銘を受けました。敢えてアルファベット順で入場させないことは「ガラパゴス化」なのでは、と当初腑に落ちなかった自分の気持ちが晴れていくのを感じました。
このようにオリンピックで様々なドラマが生まれてくるのは、オリンピック自体が世界中から多種多様な人々が集まる、ダイバーシティを活かしたエコシステムであるからではないでしょうか。
スポーツですから、そこには画一的なルールが定められています。しかし、オリンピックの精神であるダイバーシティを活かせるルールがある。だからこそ、そこにドラマを生むエコシステムが生じるのでしょう。
一般的に、欧州勢はルール作りの匠です。恐らく、遠い国の植民地を統治していた歴史的背景もあるのかと想像しています。人類共通の目標を掲げながらも、自国ファーストをしっかりとルールづくりに織り込むしたたかさがあります。
例えば、カーボンニュートラル社会に向けてのルールづくりで欧州委員会が4月に公表した「タクソノミー」では、企業が手がける事業の持続可能性を判別する基準が設けられています。このカーボンニュートラル社会を目指す基準では、日本の自動車メーカーが強みを持つプラグインハイブリッド車(PHV)が2026年以降は「持続可能」などの分類から外れる可能性があり、世の中では電気自動車(EV)ファーストという流れが確立しつつあるのです。
しかし、EV単体で見れば「グリーン」かもしれないものの、EVを製造する工程のバリューチェーンを考慮するとどうなのか、以前から気になっておりました。先日、SNSでギル・プラットという科学者がサイエンス・ベースでの観点から同様な意見を発信していることに目が留まりました。
ご自身はEVを愛用しながらも、電池製造には多大な資金、自然資源、そして、温暖化ガスを排出しているという現実を指摘されています。また、多様な人々には多様なニーズがあり、世界の人々が同じ社会的環境に置かれているわけではありません。EVの電池を充電する電力が従来の火力発電でしか供給できない社会の場合、全体ではより多くの温暖化ガスを排出しているかもしれないというご指摘です。
プラット氏は、トヨタ・リサーチ・インスティテュートアドバンスト・デベロップメントの会長であり、トヨタ本社のChief Scientist and Executive Fellow for Researchであるというバイアスがかかっているかもしれません。ただ、サイエンス・ベースでEVがカーボンニュートラル社会の実現に万能ではないというご指摘は、その通りだと思います。
私はサイエンティストではありません。でも健全な生態にはダイバーシティが重要であることぐらいは知っています。カーボンニュートラル社会のエコシステムでもソリューションのダイバーシティが重要でありましょう。
私は経済学者でもありません。経済学者は外部要因を排除してセオリーをきれいに見せる傾向がありますが、現実社会は外部要因だらけです。
トヨタ車のみならず、日本企業はカーボンニュートラルという世界のグレート・リセットにおいて、もっとサイエンス・ベースのナラティブで世界へ積極的に訴えるべきです。ルールづくりの匠は日本の長所ではないかもしれませんが、モノづくりは長所であるはず。その匠の日本人が、カーボンニュートラル社会のエコシステムにおいて役割が無いとは考えられません。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
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「道徳経済合一説」
目的が利潤の追求にあるとしても、
その根底には道徳が必要であり、
国ないしは人類全体の繁栄に対して
責任を持たなければならない。
渋沢栄一の時代ではオリンピックはアマチュアのスポーツ世界大会であり、現在のように商業化された大イベントではありませんでした。また、栄一がオリンピック大会に対してどのような意思を表明していたのかわかりません。ただ、経済的な観点、政治的な観点からオリンピックを開催したとしても、全体への責任を持たなければならないと渋沢栄一は考えたでしょう。
「青淵百話」元気振興の急務
我国の有様は、是迄やり来た仕事を大切に守って、
間違いなくやつて出るといふよりも、
更に大に計画もし、発展もして、
盛んに世界列強と競争しなければならむのである
カーボンニュートラルを目指す世界大会において日本がメダルを数多く獲得するには、確かに栄一が指摘するように、今までの成功体験の延長線上だけでは無理です。国内目線に視野が狭まっていることもダメです。まず、今回の東京オリンピックの代表選手のようにメダルを取りに行くという心構えや気迫、そして、日本が持つ技術の可能性をフルに活かせる世界の強豪が集合している競技場に参加していることが不可欠です。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。
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配信元:NTTデータエービック
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