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第17回「これからの日本の天命とは?」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第17回のテーマは「これからの日本の天命とは?」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
地球が拳を上げているのかもしれません。永遠に晴れない靄がかかっているようなコロナ禍。日本列島を襲った記録的な豪雨。ハイチの大地震と台風。そして、アフガン情勢。世界中の多くの人々が苦難や悲劇に陥る様子がニュース画面に次々と映し出され心が痛みます。
まるで人類の冒とくに対して、天罰が人間社会へ下されているようです。
およそ2500年前に、孔子は「罪を天に獲れば、祈るところなし」という言葉を残しています。天から罪を受ければ、どの神に祈っても無駄であるという意味です。
イメージ的に「天」とは神様であり、その神様がお怒りである、だから人々は処罰されているということになるでしょう。我々は天からの処罰を、首を垂れて受け続けるしかないのでしょうか。ますます憂鬱な気持ちに陥りそうです。
しかし渋沢栄一は、「私は天とは天命の意味であると信じている」と孔子の訓を解釈しています。「天の命令」と聞くと中世の十字軍や現代の原理主義テロリスト等、多くが血を見るシーンを連想してしまいますが、栄一がここで言う天命は違います。
「人間が世の中に活き働いているのは天命である、草木には草木の天命があり、鳥獣には鳥獣の天命がある。」「草木はどうしても草木で終わらねばならぬもので、鳥獣に成ろうとしても成りえるものではない。」「されば孔子が曰れた「罪を天に獲る」とは、無理な真似をして不自然の行動に出ずるという意味であろうかと思う。」「無理な真似をしたり不自然な行動をすれば、必ず悪い結果を身の上に受けねばならぬに極っている。」【「論語と算盤」天は人を罰せず】
要は、己を知れということを渋沢栄一は指摘しています。そして、己を知った上で、自分に見合った行動をすべきである、と。一方で、「不自然な行動をしない」とは何もしない受け身の状態ではないというが大事なポイントです。
自分に限界があることを知りながらも、むしろ自分が与えられた特徴や能力を駆使して活き活きと生きることが天命です。草木は草木でも活き活きとしたほうが天命を全うしているでしょうし、鳥獣もそうで、人も同じでしょう。
とは言いながらも、「天命」を知ることは容易ではなく、自分自身の天命がわかると言える人はほんの一握りです。また、自分の限界と考えると狭い世界に閉じこもってしまうかもしれません。
しかし「天命」=「自然体」と考えたとき、我々には限界があるかもしれませんが、宇宙まで含む自然は限界がなく、我々が知るのは大自然のごく一部にしかすぎません。わからないから存在していないということではなく、わからないからお手上げで降参することでもない。わからないから問いが生じ、問いに答えようとするからこそ新しい世界が拓けてくるのです。
つまり儒教が唱える「人事を尽くして天命を待つ」の「人事」にはイマジネーション、想像力が要されると言えます。
では、現状において世界における日本の天命とは何でしょう。ちょっとイマジネーションを活かす必要がありそうです。日本が「無理な真似をしたり不自然な行為ではない自然体」で、世の中で果たせる役割があるのか。それはMade With Japanだと私は思っています。
多くの国々の大勢の人々の豊かな暮らしを支えて伴走し、持続可能な社会を実現することに関与できるのは、日本の大企業だけではなく中小企業、スタートアップやNGO・NPO、首都圏だけではなく地方も含めて、色々な組み合わせの可能性があると思います。
現在の日本は大きな時代の節目に立っています。今までの日本社会が見たことのなかった規模感、スピード感で世代交代が始まっています。つまり、今までの成功体験を創ってくださった世代から、これからの成功体験を創る世代へのバトンタッチです。
過去の成功体験は人口動態が正ピラミッド形の社会により創られましたが、これからの成功体験は逆ピラミッド型の人口動態の社会で創られなければなりません。その成功体験を創る主役はミレニアル世代・Z世代になります。
30年後には彼らは60代、50代、40代になっています。明らかにこれからの時代の現役世代です。ただ、彼らは先代と比べると明らかに数が少ないことが、今までの日本の成功体験では大きな課題になります。
しかし、彼らの「自然体」とは何か。デジタル・ネイティブであるということです。物心がついたとき、生まれたときからインターネットが常時つながっている世の中しか知らない世代です。そして、インターネットの特徴とは何か。国境がないということです。
もし、この世代が、「自分は日本に暮らしながら、日本で仕事をしながら、世界とつながっているよね~」というスイッチが入れば、どのような世の中が見えてくるでしょうか。気づくはずです。自分たちは人口が少ないマイノリティではなく、世界で最も人口が多いマジョリティであることを。新しい時代における、新しい価値観により、新しい成功体験を十分に創れる世代であることを。世の中は若いのです。特に新興国・途上国では。
想像してみましょう。もし多くの国々の大勢の人々が自分の生活が成り立っているのは日本がMade With Japanとして伴走してくれているからという意識が生じれば、日本の天命が見えてくるでしょう。晴れない靄の上には青天が広がっているのです。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
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「論語と算盤」天は人を罰せず
いかに人が神にれ祈ればとて、
仏にお頼み申したからとて無理な真似をしたり
不自然な行為をすれば、
必ず因果応報はその人の身の上に廻る来るもので、
到底これを逃れるわけにゆくものでない。
天罰をくらった状況に陥ったと神に祈るのではなく、政府や会社に解決や答えを安易に求めるだけでもなく、己の心から天命のささやきが聞こえてくるかに意識を配ることが大事であると天命を全うした渋沢栄一は唱えました。
「渋沢栄一 訓言集」・一言集
人生万事天命と、あきらめが肝心である。
「人事を尽くして天命を待つ」ということは、できる限りのことをしたら、あとは焦らずに、その結果は天に任せるというこということです。「Made With Japanなんて無理だろう」と最初からあきらめることでは、決してありません。新しい時代の新しい成功体験になりえるMade With Japanを目指すことが大事であり、その後は焦らず、天に任せるという心構えが肝心です。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。
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配信元:NTTデータエービック
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