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第33回「新しい日本を見たい想いのイノベーション」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第33回のテーマは「新しい日本を見たい想いのイノベーション」です。
謹啓 あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
今年からの約十年は、日本の大企業の創立150周年ラッシュに当たります。150年前の日本は、300年続いた鎖国体制が解かれたばかりの途上国でした。その時の日本にあった豊富な資源は、端的に言えば水と、そして、人だけでした。言い換えれば、日本は人的資本の向上により、開国後数十年という短期間に当時の先進国の仲間入りを果たした訳です。
当時は、西洋諸国の産業革命により、途上国が植民地として支配されているという世界の時代背景がありました。激動している世の中において、日本社会の急速な変革こそが国運を左右するという差し迫った時代に、日本では多くの社会的イノベーションが民間から創出されました。たとえば、「銀行」。当時の日本社会では存在していなかったスタートアップであり、ネーミングも造語でした。
1873年7月20日に創立された日本初の銀行である第一国立銀行(現みずほ銀行)は生みの親である渋沢栄一から「一滴一滴が大河になる」とたとえられ、日本の新しい時代を切り拓くために成長性のある資金を社会の隅々にまで循環させる役割を託されました。当時の銀行とは、社会的課題の解決をその起業の意図としたインパクト・スタートアップだったのです。
ただ、経済社会にお金を循環させるためには他の社会的イノベーションも必要でした。例えば「紙」です。大量で安価に紙を生産するため、同年2月12日には王子製紙の前身である「抄紙会社」が創立されています。西洋技術を用いて試行錯誤を繰り返しながら生産技術を確立させた同社は、日本の近代的製造業の先駆けと言えるでしょう。
当時、途上国であった日本は外貨を稼ぐ必要があり、その時代の主力輸出製品は繊維でした。英国留学で経済学を学んでいた山辺丈夫は、1879年に渋沢栄一から紡績技術者への転身を薦められ、1882年5月3日に大阪紡績(現東洋紡)を栄一らと創立します。
しかし、海外へと船で出荷している最中に大切な製品が沈没してしまったら大変なことになります。更なる社会的イノベーションが必要でした。「保険」です。1879年8月1日には、日本初の保険会社である東京海上保険(現東京海上日動火災保険)が創立されます。
この時代には他にも数多くの会社が創立され、現在では誰でも知っている大企業になっています。多様多彩な業種の大企業群でありますが、あの激動の時代に生まれ、全てが日本に新しい時代を切り拓く社会的イノベーションを促すスタートアップであったという共通点がありました。
もうひとつの共通点があります。当時は商業とは家業が基本でありましたが、上記にご紹介した四社、そして、他の数多くの当時の会社は複数の出資者により創立された「株式会社」でありました。これも、当時では新たな社会的イノベーションでした。複数の出資者が寄り集まって共同で出資をした理由は、もちろん利益を求めるためでありました。ただ、利潤追求だけではなく、彼らは日本の新しい時代を見たかった。だから、出資をしたのだと思います。
あの時代から凡そ150年後の2023年1月6日に、日本の新しい時代を見たい出資者たちにより、一つのスタートアップが産声を上げます。“株式会社& Capital”です。経済同友会アフリカPT【岩井睦雄委員長委員長(日本たばこ産業会長)】が2021年10月に提言したアフリカ向け官民連携インパクトファンドである「アフリカ投資機構」(仮称)が、同PTの有志の出資により民間先導で実現する運びになり、副委員長である私が代表取締役CEOを拝命いたしました。
https://www.doyukai.or.jp/newsrelease/2022/221226_1315.html
共同創業者で代表取締役CIOには、ベンチャー・グロース投資に精通している精鋭が就き、これからの時代の担い手となる若手チーム&(and)経験豊富な企業・法務経営トップが社外役員に就いてガバナンス体制を利かすユニークな運用会社になります。また、去年の11月に経済同友会とアフリカ開発銀行は日アフリカのビジネス関係を強固にする協働を確認する協力趣意書を締結して、インパクト・エコシステムの共創に合意していただき、アフリカ開発銀行は&Capitalとのコ・クリエーション(共創)に前向きなスタンスを示してくださいました。
https://www.doyukai.or.jp/newsrelease/2022/221107_1048.html
我々が&Capitalを設立した意義とは、繁栄&インパクトを意図とする新たな投資の流れを同志と共に開拓して今日よりも良い明日を実現させるためです。アフリカ“&”日本と共に創る、メイド・ウィズ・ジャパンの精神により、官民連携のグローバル・イニシアティブとして、アフリカのアーリー/グロース・ステージのスタートアップへのインパクト投資を実践します。
インパクト投資とは、従来の「リスク」(不確実性)・「リターン」(収益性)という二次元で価値判断する投資&「インパクト」(環境・社会的課題解決)という三次元の価値判断を取り入れる投資です。解決する意図が重要であり、インパクトの測定・目標設定を投資プロセスの一環とします。取り残されがちな外部不経済を取り込む、包摂性あるインクルーシブな資本主義の実践とも言えるでしょう。
社会的課題を解決するスタートアップは、日本政府の「新しい資本主義」でも重点事項として取り上げられていますが、「インパクト・エコノミー」のレバレッジポイントである新たな資金の出し手の育成の観点が抜け落ちています。インパクト投資の新興運用会社は、社会的課題を解決する重要なスタートアップなのですが。是非とも、インパクト資金の出し手を促す政策も検討していただきたいところです。
特にこの1年間の世の中の環境・社会課題の現状を見渡しますと、このようなインパクト投資の経験値および「インパクト・エコノミー」の育成が、経済同友会という経済団体の下でアフリカ向けインパクトファンドの組成を通じて実践されることの意義は非常に大きいと思います。(誤解を招かないように補足しますと、本件は経済同友会が主体ではなく、&Capitalと共に経済同友会に所属している会員企業などが出資して組成されるファンドです。)
アフリカは課題が多い大陸であることは間違いがなく、机上の論理だけではなかなか通じない現実があります。だからこそ、日本は官民学連携で国を上げて、アフリカ大陸のリアルな、インパクトある経験値を持つ世代を育成すべきであります。特に日本がG7議長国を務める本年に、SDGsの中間報告的な存在である国連サミットが開催される本年に、日本一同でアフリカを含むグローバルサウスを取り残さないことを宣言するだけでなく、実践を示すことが重要ではないでしょうか。
現在のアフリカ大陸の年齢の中央値はおよそ19歳で、2050年には人口は倍増して約25憶人になると推計されています。一方、現在の日本の年齢の中央値はおよそ49歳で、2050年には約1億人に減少すると推計されています。今世紀にアフリカ&日本の組み合わせによる新しい価値の創造に、Made With Japanという新しい成功体験の構築に、我々は未来世代へ投資すべきです。
ただ、人口が増えるから良いということに限らず、重要なことはアフリカの人的資本の向上が人口増に伴うことであります。従って、我々&Capitalは“People Centric”、人を中心に置くインパクト投資を目指します。
150年前に人的資本の向上によって当時の先進国に仲間入りした日本。ある意味その驕りが招いた80年前の戦争の焼け野原から再び人的資本の向上によって経済大国を築いた日本。その日本が財務的資本&人的資本の向上でアフリカに届けられることがあるはずです。その実践を通じて、これからの新しい時代を導くために再び人的資本の向上に日本は目覚めるべきではないでしょうか。
このような“&”の精神ある実業を通じて、日本の新しい時代を見たい同志と共にスタートを切る1年が始まりました。是非とも、どうぞよろしくお願いいたします。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
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(https://bit.ly/3uM0qwl)
「論語と算盤」大丈夫の試金石
自分からこうしたいああしたいと奮励さえすれば、
大概はその意のごとくになるものである。
しかるに多くの人は自ら幸福なる運命を招こうとはせず、
かえって手前の方からほとんど故意にねじけた人となって
逆境を招くようなことをしてしまう。
それでは順境に立ちたい、幸福な生活を送りたいとて、
それを得られるはすがないではないか。
新しい会社を立ち上げることには必ず逆境の場面があります。100年以上前、栄一は人為的な逆境では心構えが重要であると示してくれました。栄一の「こうしたいああしたい」とは、日本の新しい社会を見たいという揺るがない意志でした。これは、新年を迎える現在、日本国民全体へのメッセージとも言えます。我々は、どのような新しい時代を見たいのか。
「渋沢栄一 訓言集」国家と社会
国家を進め、国家を強くせんと欲するからは、
五歩十歩の進みを持って、小成に安んじてはならない。
他の列強と拮抗する程度まで、奮進せぬばならない。
渋沢栄一が「阿弗利加」の地を訪れたのは1867年、パリ万博への渡航中に紅海から建設されていたスエズ運河を鉄道の車窓から眺めた時であり、また欧州で会見した「白耳義」(ベルギー)の王様が「コンゴーと云ふ所に鉱山を持つてござつて」と聞いていました。ただ、実業家として生前の渋沢栄一の眼中にアフリカがあったことは資料では確認できません。しかしながら民間外交に熱心な栄一が現在いたら、必ずアフリカとの国交に努めたでしょう。西洋諸国のようなレガシーは良くも悪くも無く、また、街を歩くと「ニーハオ」と言われようが、「奮進せぬばならない」と唱えながら。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他
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配信元:NTTデータエービック
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