みんかぶプレミアム会員なら
広告非表示で利用できます
広告非表示の他にも、みんかぶプレミアム会員だけのお得なサービスが盛りだくさん!
みんかぶプレミアムとはシブサワ・レター ~こぼれ話~
第26回「新しい資本主義のインパクト」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第26回のテーマは「新しい資本主義のインパクト」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
「新しい資本主義」の実行計画案が発表され、今月の7日に閣議決定されることになりました。この半年間、新しい資本主義実現会議の有識者メンバーとして討議に参加する貴重な機会を頂戴したことへの感謝、そして、多くの意見をまとめて幅広い課題を網羅する実行計画を作成していただいた事務局および関係者のご尽力に、心から敬意を表します。
「新しい資本主義とは何か、意味がわからない」という声を色々なところで聞きました。ただ、私は確信しています。今の世界情勢や日本が少子高齢化社会へと突入している時代環境において、新しい資本主義が目指しているところは極めて重要であり、このタイミングで議論を重ねたことにとても意義があると思います。
新しい資本主義が目指しているところ、すなわちWHEREは「成長と分配の好循環」であります。「成長か」や「分配か」ではなく、大事なポイントは「好循環」を経済社会で促すことです。成長「と」分配、分配「と」成長により、好循環が生じます。
では、そもそも何故、WHY、好循環を目指す新しい資本主義が必要なのか。それは、持続可能な成長に加え、「外部不経済の是正」のためです。総理が、文藝春秋2月号の寄稿で示したグランドデザインや5月のロンドン演説でもしっかりとご発言されたこの重要なキーワードを、報道や解説のコメンタリーで見た覚えがありません。一般庶民にとって「外部不経済」という表現や概念が難し過ぎるという意図的の判断なのでしょうか。新しい資本主義のパーパスそのものに焦点を当てないことは、とても残念です。
「外部不経済の是非」を簡単に説明するならば、今までの新自由主義的な価値観が置き去りにしてきた環境や社会的課題を資本主義に取り込むことです。ESG(環境、社会、ガバナンス)を情報開示というステージから、より意図的にインパクトを測定して、ポジティブな目標を設定にするという、バージョンアップです。
以上のWHEREとWHYを合わせて考えれば、「新しい資本主義」の何であるWHATが見えてきます。それは、取り残さない包摂性ある資本主義、つまり、インクルーシブな資本主義です。「新しい」概念ではないかもしれません。しかし、これからの新しい時代の繁栄には極めて重要な資本主義の有り方だと思います。
この、WHERE、WHY、WHATを実際に実行するHOWが、実行計画案に表現されているという関係性に対する認識こそが、新しい資本主義への評価には必要だと思います。しかし、一般的に、報道されてコメンタリーが焦点を当てるところはHOWです。もちろん、実行できなければ意味がありません。ただWHERE、WHY、WHATをしっかりと認識した上でHOWに進めることが大事な思考的な順路です。HOWだけに焦点を当ててしまうと、「できない」という判断で思考が停止し、新しい時代が必要としている新しい課題解決が生じない可能性が高まるからです。
また、実行計画のHOWは様々な分野を網羅しなければならないため、結果的にWHATがピンボケに見えてしまう恐れがあります。私の理解では、実行計画が提言している様々な分野において一つの軸を通せば、それは「人的資本の向上」です。
「成長と分配の好循環」には主役が必要であります。誰が、この好循環をつくるのか。「人」以外ありません。また「外部不経済」をつくったのは「人」です。したがって、「外部不経済を是正」できるのも「人」しかいません。誰一人も取り残さないためには、一人ひとりの想いと一人ひとりの行いを合わせる融合が必要になります。
日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一は、「一滴一滴が大河になる」という「合本主義」を提唱しました。この一滴とは、金銭的資本の滴だけではなく、人的資本の滴も含まれています。渋沢栄一が日本に資本主義が導入した理由とは、当時に新しい時代を切り拓く社会変革のためでした。現在の「新しい資本主義」も同じような社会変革の意気込みで、そのためのHOWの実行に期待したいところです。
と考えると、新しい資本主義は、もちろん国内を含む、グローバルな視野でHOWという実行が展開することが極めて重要です。「世界をリードしたい」、来年G7議長国として存在感を示したいと総理は意思表明されています。
そういう意味では、これもまた報道が注目していない個別分野の検討が実行計画の最終案に組み込まれました。「グローバルヘルス(国際保健)」分野への民間資金の呼び込みに向けて、健康投資・栄養対策等の取組事例の普及や投資インパクトの可視化を行うことです。グローバルヘルスとは新しい産業の成長戦略でもあり、日本の経済安全保障にも極めて重要な政策です。まさに、世界への「人への投資」であり、「成長と分配の好循環」のグローバル展開です。グローバル展開がなければ、日本の真の「成長と分配の好循環」が持続的に実現することはあり得ません。
そして、この「インパクト」こそが、今回の新しい資本主義の実行計画の最大な特長であると私は評価しています。同実行計画案の何か所で登場しますが、今まで日本政府がまとめてきた経済政策に「インパクト」という表現が掲載された事例の認識ありません。
このインパクトとは「経済的・社会的の課題解決を意図としながらも経済的リターンを要する」という考えであります。まさに、渋沢栄一の「論語と算盤」の現代意義です。そして、インパクトとして不可欠である「意図」を示すのが「測定」になります。つまり、企業のインパクトを測定し、且つ、目標を設定することによって、新しい資本主義における企業の新しい価値が可視化できるということです。もし、これが実現すれば、「新しい資本主義とは何か、意味がわからない」という声は、古い時代に留まっていると言わざるを得ません。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://bit.ly/3uM0qwl
「渋沢栄一訓言集」一言集
一国の推進は人に由る
これからの新しい時代において日本が資本主義をバージョンアップさせる理由は、外部不経済を置き去りにすることのない国になっていくためです。その実行計画が「人的資本」や「人への投資」を重視している理由も、この訓から明らかです。そして、その「人」とは自国民に限りません。世界の人的資本をも向上させることを視野に、推進するべきです。
「論語講義」顔淵第十二 9
税斂を薄うして民を富ませ、民富めば
すなわち君富むなりというのは、
動かすべからざる金言なり
今回の実行計画案で「資産所得倍増プラン」でNISA(少額投資非課税制度)の抜本的な改革を検討する意向を示しています、税収入が減少することに懸念を示す声も上がるでしょう。ただ、まさに栄一が指摘している通りです。簡単な制度で全国民が利用して富むことを促す政策は、仮に単年度の帳尻が合わないとしても、長期的には国を富ますことへつながります。そう意味で、利用者にとって極めてわかりやすい「つみたてNISA」の恒久化および未成年も利用できることを、実現会議で提案いたしました。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。
【関連記事】
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第25回「変化を恐れない“真面目さ”が日本の価値になる」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第24回「AIにも動物にもない人間力」”Why”
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第23回「1人ひとりの未来を信じる力で世界はきっと動く」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第22回「日本は世界に門を開け!」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第21回「純粋な気持ちで働ける日本企業へ」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第20回「良い会社は「人」に投資する会社」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第19回「「新しい資本主義」で日本の改革を導く!」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第18回「「新しい日本型資本主義」には日銀ETFの現物化」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第17回「これからの日本の天命とは?」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第16回「地球温暖化という世界的なチャレンジで日本もメダル獲得へ」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第15回「渋沢 栄一が泣いている!?」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第14回「日銀ETF問題の出口が大学ファンド」
❑シブサワ・レター~ こぼれ話~ 第13回「菅総理に提案する”グローバルヘルス”という戦略」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第12回「子どものためカーボンゼロのより積極的な目標設定を!」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第11回「ウェルビーイングへの声を上げよう!」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第10回「子どもたちと学ぶお金の使い方」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第9回「「DX」と「グリーン」が新しい時代を拓く!」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第8回「10兆円研究支援Fの意義」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第7回「良い日本のための3つのNGワード」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第6回「令和時代の未来は "メイド・ウィズ・ジャパン"」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第5回「なぜ、バフェット氏が日本株を買ったのか?」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第4回「"わかんない”は好奇心のスイッチ」
❑シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第3回「日本はSDGsでプレゼンスを高めるべき」
配信元:NTTデータエービック
みんかぶプレミアム会員なら
広告非表示で利用できます
広告非表示の他にも、みんかぶプレミアム会員だけのお得なサービスが盛りだくさん!
みんかぶプレミアムとはファンド名 | 基準価額 (前日比) |
|
---|---|---|
1
位
|
eMAXIS Slim米国株式(S&P500) |
33,133円
+222円
|
2
位
|
インベスコ世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(毎月決算型)(世界のベスト) |
9,536円
0円
|
3
位
|
eMAXIS Slim全世界株式(オール・カントリー) |
27,011円
+157円
|
4
位
|
netWIN GSテクノロジー株式ファンドBコース(為替ヘッジなし) |
38,283円
+536円
|
5
位
|
iFreeNEXT FANG+インデックス |
65,602円
+1,353円
|
みんかぶプレミアム会員なら
広告非表示で利用できます
広告非表示の他にも、みんかぶプレミアム会員だけのお得なサービスが盛りだくさん!
みんかぶプレミアムとは