シブサワ・レター ~こぼれ話~
第57回「"昭和100年” 企業価値の”共創”への期待」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第57回のテーマは「"昭和100年” 企業価値の”共創”への期待」です。
謹啓 あけましておめでとうございます。
「昭和100年」が明けました。昭和が始まった年は「明治57年」。途上国であった日本が、わずか半世紀強で当時の先進国の仲間入りを果たし、それを誇っていた。一言でいえば、青天を衝け抜けていたイケイケドンドンの時代でした。
ただ当時、世界情勢の雲行きが怪しくなる予兆もありました。
多くの国際平和活動のために本人が老骨に鞭打っていた姿が浮かび上がってきます。
特に日米間の親善を築くために、栄一が数多くの米国識者との関係構築に努めたことが確認できます。例えば、シドニー・ギューリック宣教師が文通で示された「正当ナル日米関係ノ再興」に栄一は賛同し、数年後に「青い目の人形」交流に協力しています。
また同年3月12日に親交のあった中国の近代革命先行者の孫文が亡くなったことで、日華実業協会を代表して弔電を送った記録もあります。
この二人の偉人が栄一と共有していた平和と共栄の想いが当時でもっと多くの人々の共感と行動へと広まっていれば、300万人を超える日本人、数えきれない多くの隣国の人々が尊い命を落とす悲劇を回避できたかもしれません。
「終戦80年」を迎える今年に、特に戦争・紛争が絶えない世界情勢であるからこそ、我々は平和と共栄について改めて意識を高めることが大切でありましょう。
一方、経済界にとって「昭和100年」はモノ申すアクティビストやTOB(株式公開買い付け)活動が常態化してきているため、日本企業は心穏やかではないかもしれません。ただ、これは良い意味で、「昭和」に築き繁栄した成功体験が100年を経て環境の変化に応じ終末を迎えたことを示しています。これからの新しい時代への成功体験を築く意思の表明が欠かせなくなっている現状は、日本の未来にとって決して悪いことではありません。
長年、日本企業は外国人投資家などから資本の効率性(ROE)を高めるべきであると責め立てられていました。確かに株式資本を提供する側の視点であれば、企業は現預金を抱え過ぎることなく将来への投資の財源として活用すべきであり、将来への投資機会を見いだせないのであれば株主へ還元すべきという考えは理にかなっています。
しかしながら、ROEとは単年度の利益と株主資本を分母とする割り算なので、R(利益)が一定水準であっても、企業が保有している現金で(あるいは借り入れしても)自社株買いを実施してE(資本)を消却すれば、計算上ROEは高まり、既存の株主の「価値」は向上します。つまり、ROEと単年度の無機的な企業価値の表現であり、これからの新しい時代への企業価値の期待値や長期的な時間軸は含まれていません。
一方、PBRとは企業のP時価総額(株式市場による企業価値の評価)とB純資産(≒株主資本)の割り算になります。計算上、PBR=PERxROEになりますので、ROEが高まれば、PBRも高まります。ただ、ROEが一定水準であっても、PER(R現在の利益に対するP株式市場による企業価値の評価)が向上すれば、PBRも向上します。
では、「株式市場による企業価値の評価」と何か。それは、これからの新しい時代への企業価値の期待値に他なりません。そして期待値とは無機的な現状の計算ではなく、有機的な未来という時間軸の表現になります。
またPBRが高まれば、アクティビストやTOBの標的になるリスクを軽減させます。これからの新しい時代における日本企業の価値向上にROE改革は外せないものの、むしろ着目すべきはPBR改革ではないでしょうか。企業は自社の財務的価値に加え、非財務的価値の可視化を能動的に取り組むことによって第三者評価の向上を図るべきです。
「昭和100年」以降の企業価値の定義が「効率性向上」に留まることなく、「期待値向上」にも展開することによって日本株式市場の史上最高値更新へとつながります。今までやってきたことを愚直に効率的に実施することは大切なものの、現状維持の延長線上では期待値は高まりません。
私が期待を寄せている、これらの日本の新しい時代の成功体験のキーワードは「共創」Co-Creationです。昭和の(貴国に輸出する)Made In Japan、平成の(貴国でつくる)Made By Japan、から令和の(世界と共につくる)Made With Japanへの展開です。新しい時代における日本が世界へ提案する平和と共栄の意図であり、世界を日本に招く大阪・関西万博が開催される「昭和100年」だからこそ、この意識を高めるべきではないでしょうか。
先月下旬に経済同友会の中東・アフリカ委員会が主催したフォーラムに官民・産学の識者を招き、「官民共創によるオファー型協力に向けて」というテーマでディスカッションを展開しました。オファー型協力とは、従来の相手(途上国)の要請に応える開発協力から発展する新しい時代への試みであり、ODA(政府開発援助)に加え公的・民間資金も含みながら日本らしさの強みを生かして相手と共に創ることで途上国と日本の課題解決につなげることを目指しています。
大事なポイントは、官民「連携」でなく、「共創」という表現を用いていることです。連携とは、それぞれに与えられた役割が定められ、交差するところを示す概念だと思います。つまり、お互いが既存路線を進んでいて、合うところで合わせましょうという考えが「連携」です。一方、「共創」とは共に創る。つまり、無から有を、それぞれの持ち分を共に生かしながら創りましょうということで既存路線の延長線上に限らない概念だと思います。
万博に加え、TICAD(アフリカ開発会議)が横浜で開催される「昭和100年」に、私が仲間たちとチャレンジする共創、つまり、無いところから有るところの場がアフリカ大陸になります。「遠い」存在であるアフリカ大陸だからこそ、日アフリカのエコシステムを共に創ることは少子高齢化により人口動態の激変に直面している日本社会の未来世代のために極めて大切な先行投資だと思っています。
また前回のレターで紹介したCost of Inaction(行動しないことのコスト)が日本にとって最も高いところがアフリカになるかもしれません。現時点では日本の参入を様々な部門で歓迎してくれていますが、社会発展が進んだ「平成50年」や「昭和150年」という将来まで検討し続ける待ちスタンスでは、「入場料」がもっと高くなっているかもしれないという声がアフリカ現地から聞こえてきます。
日アフリカのエコシステム創りに一石を投じるために、経済同友会の中東・アフリカ委員会の会員企業などが設立した&Capitalは今春にアフリカ向けの(課題解決と投資利益の両立を目指す)インパクトファンドを組成いたします。
この民間ファンドを「共創」したいと、2年前の構想段階で意思表明してくれたのが、アフリカ開発銀行という「官」でした。アフリカの期待を代表する彼らが掲げてくれた共創の高い期待に応えるよう、日本の先駆的な企業・機関の数多くが戦略的に参画していただけることに期待しています。アフリカで「効率性」を求めると苦労しますが、「期待値」は無限と言えるでしょう。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://urldefense.com/v3/__https://y.bmd.jp/90/707/132/15234__;!!GCTRfqYYOYGmgK_z!7FqDsFa5nYRcTquPLEYOTpbqwWGCVhehCErFJugpf4S9ppHytA6hMUCPIxIKWQNi2R9_bFkQBdveb4NjDghi46W_Zc-czw$ )
「渋沢栄一訓言集」国家と社会
国家を進め、国家を強くせんと欲するからは、
五歩十歩の進みを持って、小成に安んじてはならない。
他の列強と拮抗する程度まで、奮進せぬばならない。
奮進せぬばならない。。。「昭和100年」だからこそ、新しい時代であるからこそ、肝に銘じたい言葉ですね。また現在の世界情勢において、国家を進めて強くしたいということは「自国ナンバーワン」という一人勝ちでなく、平和と共栄を実現させる共創を先導していることが他国から認められることだと思います。
「論語と算盤」国家と社会
彼我経済上の親善は、
やがて政治上の親善となって
国際間の平和が保護されるのである。
国際間の平和を政治やメディアだけに任すと、現在のネット社会で増強されているバイナリー的世論形成で良いことが起こらないと思います。渋沢栄一が民間外交に老骨に鞭打っていたことも同じ考えからだと思います。民間だけでは平和構築は不可能かもしれません。ただ、民間から平和構築への意識を高める声を上げることは、「終戦80年」であるからこそ、言行一致で示すことで大事ではないでしょうか。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他
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配信元:NTTデータエービック
ファンド名 | 基準価額 (前日比) |
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1
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