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第36回「3年ぶりのニューヨークで見た社会的格差の課題」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第36回のテーマは「3年ぶりのニューヨークで見た社会的格差の課題」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
先月中旬は3年ぶりの米国出張で、久しぶりにニューヨークの空気を吸いました。
3年前のニューヨーク往きの飛行機は普通に混んでいましたが、復路はガラガラ。全てのフライトアテンダントがマスクで口元を隠しながらビニール手袋で機内の飲をサーブするのは、あまり気持ちの良いものではありませんでした。
NY現地では「アジアはウイルス感染が広まっているようで大変だね~」と他人事で、その直後に突撃する巨大嵐の予兆を感じていませんでした。
今回、JFK空港からマンハッタンへ向かう風景は数十年も変わらない印象を受けました。世界からの観光客が戻って活況で、マスク比率は1%未満。そういう意味ではコロナ禍前に元通りしているように感じました。
しかしミッドタウンからセントラル・パークを散策すると店舗の入れ替わりなど町並みの様々な変化を感じました。
セントラル・パーク南側に並ぶ馴染みあるビルの列の背後にはいくつかの細い高層ビルが突き抜けています。周囲と異なる近代的デザインで、後からわかりましたが、その一棟は米国で最も高層な居住用ビルで著名ヘッジファンド・マネージャーが2.38億ドル(現在の円換算で約309憶円)の物件(一棟ではなく、一室です)を購入しています。
また、グランドセントラル駅内の中央広場を見下ろすカフェでチーズバーガーとワインを注文しましたが、お勘定はチップ入りで$75。現在の円安換算だと1万円ぐらいになり、観光地の価格帯だとしても驚きました。
その一方、駅の周囲にはホームレスが以前よりも増えている印象を受けました。それも女性が目立ち、年齢的には働き盛りの現役世代です。米国社会の格差問題は依然として深刻です。
富の集中を象徴するようなSVB(シリコンバレーバンク)や暗号資産関連が焦げ付いたシグネチャー銀行が破綻した最中の出張でもあり、社会のきしみ音を感じます。
私は小学校から大学までテキサスという銃社会で育ちました。今から半世紀ほど前の話ですが、あの頃に今のような大人が小学校を襲撃するなど痛ましい事件を聞いたことはありませんでした。
また、前大統領が起訴されたことを自身の再選の材料に使っている。米国では何かが壊れている、そんな感じがしています。
一方、日本はどうでしょう。米国と比べると目立たないですが、社会格差の課題は深刻です。都市中心部には次々と新しいビルが立ち並び、そこに入るテナントはどこからか移転しているはずで、空洞化が進むでしょう。
ただ、日本の場合は、何かを壊す必要がある。そんな感じがしています。平成時代を終えて、令和という新しい時代に突入しましたが、昭和時代の成功体験や慣習が産官学において未だに引き継がれています。
一方で、殻にひびが入り始めていることも確かです。デフレだから賃金が上がらない、上げられないという「常識」に。
岸田総理の「新しい資本主義」が発足した当初から掲げていた重要な政策課題は賃金アップでしたが、これについて米国メディアも注目し始めています。
NY出張中にジャパン・ソサエティで「新しい資本主義」について講演しましたが、会場で挨拶した経済系テレビ局のコメンテーターから急遽、当日の生放送インタビューの依頼を受けました。元米連邦準備銀行で勤めた経歴を持つ彼女の関心事は春闘でした。
今回の賃金上昇は今年限りなのか、大企業だけの現象なのか、中小企業の賃金はどうなのか、等と詰められました。日本でもコロナ禍が明けた経済の再稼働を顕著に感じますが、やはり目に付くの人材不足であり、賃金上昇の新しい時代に日本は入った可能性があると私は答えました。
昭和時代の成功体験では人材不足という経営的な制約はありませんでしたが、令和時代において新しい成功体験をつくるには人材不足が大前提になります。人口ボーナスという成長の追い風の元では、新卒一括採用、終身雇用、年功序列は合理的な労働慣習でしたが、人口減少の中で自ら新たな風をつくるには非合理的な慣習です。
物価上昇を追うような賃金アップではなく、健全な構造的な賃金上昇には新たな価値創造を促す労働市場の流動化が不可欠であり、「新しい資本主義実現会議」でこの考えを訴え続けていました。同じような考えを持つ委員が少なくありません。
労働の「流動化」という言葉を使うとハレーションが生じる懸念が政府にあると思いますが、去年の秋頃からトーンが明らかに変わっていて、「労働移動の円滑化」という表現でリスキリング等を推しています。つまり、適材適所の働き手がきちんと稼げる策です。労働の新陳代謝を高める必要性は官僚も政治家の方々も理解し始めていると実感しています。
また、最近では価格転嫁しても良いというメッセージを政府は発信しています。購入者もそれを受け入れられる社会的土台が形成されつつあるように思います。やっとデフレマインドから脱却した可能性があり、そうであれば中小企業の賃金上昇にもつながるのではないでしょうか。
雇用を守ることより雇用を創る。そのためには、過去の成功体験の延長線上に甘んじることなく、新たな価値を生む。これが、日本の新しい時代の企業経営に求められていることです。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
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「論語講義」雍也第六 18
子曰く、之を知る者は之を好む者に如かず。
之を好む者は之を楽しむ者に如かず。」
もし、それ衷心より道を楽しむ者に至っては、
いかなる困難に遭遇するも挫折せず、
いかなる苦痛をも苦痛とせず、
敢然として道に進み、
道を実行して往けるものである。
最近、大企業の経営トップの会合における教育改革についての討議で、仕事にFUNが無ければならないという発言がありました。FUNが無ければ新しい価値創造があり得ないからです。労働の「移動」や「流動性」はFUNを求めるため、という社会的常識になれば、日本社会は活況になること間違いないでしょう。
「論語と算盤」この熟誠を要す
人が職掌を尽くすというにも、
この趣味を持つということを深く希望する。
趣味という字は
理想とも聞こえるし、
欲望とも聞こえるし、
あるいは好み楽しむ
というような意味にも聞こえる。
趣味とは、心が向かうところ「趣」の「味」と考えると、これがまさに豊かな人生につながる自己実現であす。その実現のための適所を見つけることできる労働の「円滑化」、「流動性」がある社会は、豊かな社会でありましょう。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他
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配信元:NTTデータエービック
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