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第37回「広島G7サミットへの期待」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第37回のテーマは「広島G7サミットへの期待」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
今月の19日から21日まで広島でG7サミットが開催されます。様々な地政学リスクに晒されている昨今、人類の世界平和の願いを象徴する聖地である広島は、先進国の首脳が集まり重要課題を討議する場として最も相応しく、かつタイムリーです。
この世界的イベントに先立ち、コモンズ投信は4月9日に広島で小さな催しを行いました。NPO法人PCV と共催したコモンズピースサミット2023(https://youtu.be/L77tdHSMMUA)およびピースツアー(https://youtu.be/XTCSBwhll9o)です。広島平和記念公園は何回も訪れていますが、次世代の若手ガイドの語りは被爆者の方と一味違う「伝えたい」という情熱を感じ、また今まで自分が知らなかった学びも多々ありました。
ツアーに一緒にご参加くださったコモンズの「お仲間」(ファンド受益者)は親子連れ組も複数いらっしゃいました。お子さんのご誕生をきっかけにコモンズこどもトラストの口座を開設してくださった常連のお子さんは、もう中学生。このようなお子さんの成長の実感は「世代を超える長期投資」を提供する資産運用会社の創業理念そのものであり、大変感慨深いものがありました。
また最近では全国各地での同じ傾向が観測できますが、平和公園へのインバウンドの外国人がとても多かったです。リノベーションした広島平和記念資料館の来館者の8割ぐらいが外国の方でした。外見、言葉、文化などはそれぞれ異なりますが、感情は同じ。ここに、人類への希望を感じました。
笑顔も多かったこのイベントが開催された全く同じ場所で、78年前に数えきれないほどの方々の笑顔が永遠に奪われてしまった事実は重かったです。一方、多くの笑顔が広島に戻ってきている事実も確かであり、人間力も感じました。
長期投資には学びが必要です。また、長期投資には平和も必要です。そして、平和に不可欠なのは学び、一人ひとりの平和への想いです。平和記念館で涙を流していたのは地域、文化、宗教、国を問わず、一人ひとりでした。人間の感情は垣根を超える共感のコモン・グラウンドです。平和とは、このような共感による長期投資でこそ実現すると今回のコモンズピースサミットで感じ入りました。
平和を尊ぶ思いで迎えたGWの次なる行き先は再びアフリカでした。外務省の企画で構成された官民合同ミッションでモザンビークとモーリシャスを民間団長として訪問しました。
モザンビークは2010年に莫大な天然ガス田が発見されたものの、テロや汚職で開発が思うように進んでいません。国内世帯のおよそ半分が電化されておらず、また、水力発電が80%、ガス火力発電が17%、太陽光発電が2%です。言い換えると、インフラやロジスティックスが整備されればエネルギー大国として発展できる可能性がとても大きい国です。貧困は重要課題ですが、建物の壁に落書きなど無く、温かい人柄を感じる人が多かった印象でした。
モーリシャスはマダガスカルの東に位置する小さな諸島です。ここも、人柄の温かさを感じる地域でした。砂糖キビの第一産業や観光が主な産業ではありますが、アフリカ投資のファンドの本拠地とするゲートウェイとしてのニッチ産業を稼ぎ頭としており、一人当たりGDPが2023年まで1万ドルとアフリカ54か国の上位を誇ります。英語とフランス語を話せるので人材のポテンシャルも感じます。地域的にも、また世銀のDoing Business指数でもアフリカで上位にあり、アフリカ向けのロジスティクスの拠点として展開しています。
今回開催された日モーリシャス投資フォーラムには首相、大臣、中央銀行総裁などが出席され、懇親レセプションに最後まで出席されるなど、日本への関心が高いことも感じ入りました。
今年は日本政府が主宰するTICAD(アフリカ開発会議)30周年という記念すべき年になりますが、広島G7サミットの開催の直前にアフリカ4ヵ国へ岸田総理が渡航されたことはG7議長国としてアフリカへのコミットメントを示す素晴らしいメッセージであり、深く敬意を表します。超御多忙な行程の中、現地で開催された日モザンビーク経済交流会に岸田総理がお立ち寄りくださり、参加者一同は感激いたしました。
総理は今年に入ってから「グローバルサウス」という言葉を発することが増えているように思います。先進国が北半球に位置しているところ、アフリカ、南アジア、南アメリカ等の低所得途上国(且つ、著しい人口増が予測されている国々)の多くが南半球です。地球温暖化ガスの排出量はグローバルノースが圧倒的に多いのに、その負担はグローバルサウスに押し付けているという構図もあります。
岸田総理がインドやアフリカ訪問を通じてグローバルサウスへ呼びかけていることは、G7議長国としてグローバルサウスを取り残さないという意思表明であり、これは日本の国家スタンスとして素晴らしいことです。
ただ、4月中旬に軽井沢で開催されたG7外相会議では、「グローバルサウス」という表現を使うことに難色を示す声が上がったようです。その表現をG7が使うと「上から目線」なのではという懸念です。その説明を鵜呑みすることには留意が必要だと思います。そもそも今年1月にインドが「Voice of Global South Summit」を開催しているので、彼ら自身が普通に使っている表現でもあります。
確かに「グローバルサウス」の定義は曖昧です。ただG7外相会議で提示された、より正確に3つの分野に分けることは、分断と制圧という西洋の植民地統治のための名残や知恵を感じます。
現在の東西分裂の世界情勢においてグローバルサウスが一つの声を上げて、日本が彼らに寄り添うことに対しての懸念の表明と勘ぐるのは考え過ぎでしょうか。G7サミットでは合意を得られなくとも、日本はグローバルサウスという表現で低所得途上国が取り残されないように取り組むことは大変重要な長期的な国家戦略だと思います。
一方、G7サミットの首脳宣言で合意を期待していることがあります。岸田総理の新しい資本主義の要に「人的資本の向上」があり、そのグローバル展開は日本が先進国サミットで長年推してきていたグローバルヘルス(国際保健)だと私は考えます。低所得途上国にも健康・医療ケアへのアクセスを構築するのはSDGsでも表現されている人間の根底的なニーズであり、同分野への「民間資金の呼び込みに向けて、健康投資・栄養対策等の取組事例の普及や投資インパクトの可視化を行う」ことは2022年6月の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」にも掲載されています。
内閣官房健康医療戦略室の下で設置された「インパクト投資とグローバルヘルス研究会」の座長として半年間かけて議論してまとめた最終報告書は、岸田総理に直接手交する機会を4月中旬にいただきました。G7のグローバルヘルスのアジェンダに人的資本向上の「インパクト」を支持することを宣言で表現できることに意義があり、日本の存在感を世界で高めることに期待できます。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/global_health/pdf/kenkyukai_houkoku_20230418.pdf
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://bit.ly/3uM0qwl)
「渋沢栄一訓言集」・国家と社会
彼我経済上の親善は、やがて政治上の親善となって
国際間の平和が保護されるのである。
官民合同ミッションがモザンビークとモーリシャスに派遣された理由は、日本とアフリカとの間の経済的な関係を高めることです。アフリカが必要とされていることの多くに日本が提供できることも明らかです。組織の意思決定さえ下すことができれば。経済活動を通じて、政治の親善・世界の平和を支える責務は経済界も果たすべきです。
「渋沢栄一訓言集」・一言集
一国の推進は人に由る
150年前の日本は途上国でした。日本の豊富な資源とは端的には水と森しかありませんでした。そして、人です。日本は「人的資本の向上」により、数十年間で当時の先進国の仲間入りを果たしました。78年前の戦争の焼け野原から日本は再び「人的資本の向上」により、80年代には世界第二経済大国の座を得ました。その実績を持つ日本が再び「人的資本の向上」により、自国はもちろんのこと、アフリカなどグローバルサウスと共に新しい時代の価値を共創Co-Creationを後世に残すべきだと痛感しています。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他
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配信元:NTTデータエービック
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