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シブサワ・レター ~こぼれ話~ 第34回「アフリカのスラム街で感じたインパクト」

インタビュー
配信元:NTTデータエービック
投稿:
シブサワ・レター  ~こぼれ話~ 第34回「アフリカのスラム街で感じたインパクト」

シブサワ・レター ~こぼれ話~

第34回「アフリカのスラム街で感じたインパクト」

 

日本資本主義の父 渋沢  栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。

 

第34回のテーマは「アフリカのスラム街で感じたインパクト」です。

 

 

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 

マイクロバスから下車した時に緊張を感じ、あらゆる方向から浴びていた視線から目をそらし、建物の中へと避難するように入りました。降ろされた場所はキベラ、ケニアのナイロビ市にあるアフリカ最大級のスラム街です。

 

17万人から200万人が暮していると言われている地区ですが、要は正確な人口を誰も把握できていないということでありましょう。住居が法律上定められておらず、電気・水道・下水道などが未整備なまま街が形成されたInformal Settlement(非正規市街地)であります。

 

ブリーフィングを受けて、我々は二つの10名チームに分かれて地区を徒歩で視察しました。大人数の日本人の移動でかなり目立つのではないかと危惧しましたが、現地出身のガイド及び軍服を着した警備員がチームごとに2名付きました。肩から古びたライフル銃がぶら下がっています。

 

我々にとっては初めての体験ですが、キベラ街の住民にとっては、ああ、また来たのねという光景のようでした。我々が立ち止まって説明を受けている時に集まってくるのは子供たちだけでした。

 

下水道が整備されていないようで、我々が歩く細い通り道の真ん中に汚い排水路がむき出しになっている場所もありました。全体的に何とも言えない匂いが漂っています。舗装路どころか砂利道もない路地を挟むようにボロボロな小屋が密集しています。ただ、そのような環境でも様々な生活用品の出店が並ぶ経済圏であることに、人間はたくましいと感じました。

 

視察団の若手起業家の女性が指摘してくれましたが、美容院等で現地の女子は頭の毛をブレイズやカラフルなビーズでアレンジしています。貧困と云われる生活環境でも、人間は美を求めたいという欲求があるという発見でした。また決済は主に携帯電話のSMSで取引できるM-Pesaです。

 

キベラ街の境界線である高台に線路が走っています。立ち入り禁止などのサインはなく、この真っすぐな「砂利道」が住民にとっては開けて歩きやすい歩道となり、我々もそこを歩きました。高台から見下ろすと線路の脇に沿って塀があり、反対側にきれいな緑が広がっている場所があります。キベラの子ども達が塀の柵の隙間に頭を突っ込んで眺めている先はゴルフクラブです。

 

遠いところにゴルファーたちが優雅にプレイを楽しんでいるのが見えます。芝生が緑な理由はもちろん水を撒いているからですが、その水が下水道を通じてキベラ街に流れ込んでいます。そこでお母さんが洗濯しています。これは母の智恵かもしれません。何故なら、そのロケーションが最も上流であり、比較的にきれいな場所だからです。

 

キベラを観察しながら、人の環境への適応力とも言えますが、生活の「慣れ」の怖さも感じました。ずっと昨日と今日と明日を同じように暮している慣れです。その慣れは部外者の視点から違和感を覚えます。

 

ただ、それはキベラに限ったことではなく、満員電車で通勤して給料が上がらないことに文句を言わない日本の労働環境を外部者が見たら同じように感じるかもしれません。

 

高台から180度回転してゴルフコースに背を向けると目の前にキベラ街の全体像がパノラマ的に展望できます。しかし我々が立つ場所の足元には大量のゴミの捨て場があります。雨が少ない地域ですが、降った時には雨水と共にゴミが居住地へと流れ込むことが想像できます。

 

ただ、このよう苛酷な環境でもオアシスがあります。マゴソ・スクールです。

 

同地区で生まれ育ち、23歳の時に親を亡くし、17名の妹弟を自分の手で育てたリリアンさん(通称マザーチューチュー)が、Never Give Up(絶対にあきらめるな)という愛情に溢れた精神を他の親を失った子ども達などにも広めたいという想いから始まった教育サンクチュアリです。

 

初等教育から卒業した一部の若者たちは校内に設けられているコンピュータラボで熱心にコーディングの勉強に励んでいました。マゴソOBOGとして高校やナイロビ大学など現地の名門校へ進む若者たちも生まれています。人的資本(可能性)を尊び、人への投資の原型です。

 

我々お客さん達を歓迎する行事で全生徒が校長先生と共に歌と踊りを校庭で披露してくれて、我々も招かれて一緒に踊りました。相変わらず自分はリズム感が無いと痛感しながらも、言葉が通じなくても、笑顔、歓迎、感謝や喜びは共通言語であると確信しました。

 

キベラというアフリカの貧困地区において、このようなキラリと光る希望の宝物が長年継続している理由は、実は日本人の善意です。学生時代に世の中の難民問題を体感するために旅立った世界旅行でたどり着いたキベラスラムに30年以上、人生をかけた日本人女性の早川千晶さんとリリアンさんの出会いからマゴソスクールが生まれ、多くの子どもや若者達に希望を与えています。

 

リリアンさんの親の愛を原動力とする感動的な活動を、早川さんの情熱により日本から活動資金の支援者を募って実現していることに深く深く感銘を受けました。http://magoso.jp/

 

交通渋滞にもよりますが、キベラ街から車で数十分ほどでナイロビの様々なスタートアップHUBなどを訪問できます。日本顔負けの近代的で開放的な施設もあり、数多くの若手が様々なスターアップ事業に懸命に取り組んでいる姿が観察できます。

 

キベラスラムと全く異なるシーンです。ただ、その多くのアフリカのスタートアップの事業展開は環境・社会課題を解決することと直接的につながっています。キベラの子ども達と置かれている立場は全く異なります。ただ、希望の目の輝きは同じです。

 

今回のケニア渡航はNPO法人クロスフィールズの社会的課題スタディツアーに参画したことで実現しました。https://crossfields.jp/

 

ご一緒に参加した大企業の中堅やスタートアップの起業家の皆さんもそれぞれの視点から感じ取ったことが多々あったようでした。自分自身の「慣れ」に、良い意味で自ら衝撃を与えることで、新たな視点からの世界観が広まったことでしょう。

 

岸田総理は、先月の施政方針演説において気候変動、エネルギー、食料など諸課題を挙げ、世界が直面する課題に国際社会全体が協力して対応していくためにも、G7が結束して「グローバル・サウス」に対する関与を強化していくと宣言されました。

 

同じタイミングでケニアの社会的課題スタディツアーに参加し、首相の「新しい資本主義」実現会議の一員である私は、日本企業と共に&Capitalが組成するインパクトファンドは、希望を繋げるPeople Centric(人間中心的)な新しいお金の流れと想いをアフリカへ日本から届けるべきと意を強くしました。

 


□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://bit.ly/3uM0qwl)


「論語と算盤」人は平等なるべし

権謀的な色彩をもってその人を汚辱し、
その人を封じ込めてしまうような罪は
決して致さぬ。

アフリカ大陸は西洋諸国から搾取され続けられた悲しい歴史があります。現在でも先進国のEV化に不可欠なレア・メタル等、アフリカの資源を目当てにする様々な企みが続いています。ただ2050年の世界人口100億人の1/4を占めるアフリカの人的資本の向上にMade With Japanという精神で新たな価値を共創することができたら、我々の後世により良い世の中を引き継ぐことができるでしょう。


「渋沢栄一 訓言集」学問と教育

新しき時代には
新しき人物を養成して
新しき事物を処理せぬばならない。

遠い存在であるアフリカ大陸。社会的課題と経済的リターンを両立させるインパクト投資。良く言えば、二つのフロンティア。実態は、多くの日本人にとって今までの時代に馴染みがない、いわゆるダブル「前例ない」です。ただ、新しき時代の日本を築くために、両方とも不可欠になると予感しています。前例を意欲的に作るべきでありましょう。

謹白
 

❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。

渋澤 健

 

【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他

 

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配信元:NTTデータエービック

このコラムの著者

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渋澤 健 (シブサワ ケン)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。

コモンズ投信株式会社取締役会長。

1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。

JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。

2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。

07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。

経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。

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