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第43回「今回はホンモノか?”貯蓄から投資へ”」
日本資本主義の父 渋沢 栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。
第43回のテーマは「今回はホンモノか?”貯蓄から投資へ”」です。
謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
10月初旬に都内で開催されたPRI(責任投資原則)の年次総会で、岸田総理は世界中から集まった投資家に向けて演説なさいました。その中で「世界の課題解決に貢献し、持続的な成長を実現する企業活動と投資を促すための、特に重要な日本の政策を4つ」をご紹介されました。
1つ目は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の投資の促進。
2つ目は、インパクトに着目し社会課題の解決に尽力するスタートアップへの支援。
3つ目は人的資本の充実のため、開示に関する国際的な基準開発の議論に、日本の経験を提供し、積極的に貢献。
4つ目は、サステナビリティの取組みを促す金融機能の強化であり、特に個人の長期投資を預かる資産運用業者やアセットオーナーの運用力を重視。
これら4点の全ては、岸田政権が掲げる「運用立国」につながる内容です。2008年に仲間たちと設立したコモンズ投信が2009年から運用しているコモンズ30ファンドが15年間貫いてきた理念に一致し、我々がまさに実行し続けてきた内容であると自負しています。
岸田総理の演説とほぼ同じタイミングの9月末に、米大手投資調査会社のMorningstarが日本においてはじめて開催したファンドアワードで、コモンズ30ファンドは最優秀賞を受賞いたしました。「これまで長期にわたって投資家の皆様の成功に貢献し、今後も高いリスク調整後リターンを長期的に提供できる」と判断したファンドに贈られるアワードを頂いたことは感無量です。
これは、コモンズ投信で一緒に働くメンバーたち、起業を可能してくれた株主の方々、長年我々を支えてくださった、主に一般個人の受益者(我々の「お仲間」)の方々、そして、もちろん企業価値を持続的に創造してくださった投資先企業の皆様全ての協働のおかげです。心より御礼を申し上げます。一人ひとりの未来を信じる力を合わせて次の時代をともに拓く、世代を超える長期投資を目指すコモンズ投信の想いが時代の流れになってきたことを感じます。
過去30年ほど前から「貯蓄から投資」へと政府からの呼びかけありました。しかし、特に目立った成果は無く、金利が「ゼロ」になっても、個人の現預金残高の総額は増える一方でした。その中、今回の「資産運用立国」が置かれている状況は以前と異なると思います。
まず、オンラインなどITの台頭により、既存金融機関のモデルが急激に時代遅れになっていること。
それから、15年前は販売会社の子会社ではない「独立系」運用会社の存在感はほぼ皆無だったのですが、現在はコモンズ投信を始め、風景が変わっています。
そして、何よりも日本の人口動態が激変しており、過去の成功体験の延長戦では未来の成功体験が描けないという実態です。日本社会構造のサステナビリティのためには、ファイナンスの考え方が抜本的にアップデートされなければなりません。
この時代的な潮流は日本国内に限ることではありません。11月30日から12月12日にCOP28(第28回国連気候変動枠組条約締約国会議)がドバイで開催されます。
1995年にベルリンで発足したCOPですが、1997年のCOP3では「京都議定書」が採択され、2015年のCOP21では「パリ協定」が採択されるなど、グローバル・ルールの方向性を世界が総じて定める気候変動問題解決の「大聖地」です。
発足当時のCOPは環境分野の専門家や政策関係者の会合で、資本市場が話題にすることはほぼありませんでした。ただ現在は違います。
その転機は2015年のパリ協定で「地球の平均気温の上昇を産業革命以前から2℃より十分下方に抑え(2℃目標)、さらには1.5℃に抑える努力をすること」という方針について世界各国が問われたことからでした。
その同じ2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)に署名しました。日本のESG投資が本格的に広まり、COPへの意識も高まりました。今年のCOP28には多くの経営トップを含む企業や投資家が参加する予定です。そして今回は新しい資本市場の進化を促す重要な宣言も予定されています。
2年前の英国グラスゴーで開催されたCOP26で発足したISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が、今年6月に公表したS1「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」とS2「気候関連開示」というグローバル基準を支持する宣言(以下、仮訳)への賛同を世界の企業経営トップ及び機関投資家に求めています。
「気候リスクは企業と資本にますます現実的な影響を与えています。したがって、COP28での気候変動対策の呼びかけに応えて、私たちは世界レベルで一貫した比較可能な気候関連の開示を可能にする市場インフラの確立を支持します。私たちは、ISSB の気候基準を気候の世界的なベースラインとして採用し、その使用の推進に取り組んでいます。」
ISSBのS1、S2の開示基準の公表を受け、日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)は日本版S1、S2 の開発を審議しており、草案公表の目標は2024年3月末までの予定で、パブリックコメントの期間を経て、確定案の公表は2025年3月末としています。
SSBJの審議プロセスを経て、金融庁は3月決算企業の場合は2026年6月に3月期に関わる有価証券報告書からSSBJが公表する基準に基づくサステナビリティ開示を日本企業に求める見込みです。
世界のグローバル・ベースラインなので、少なくともG7各国が足並みを揃えることは好ましいです。ただヨーロッパは2025年12月末から強制的に実施する道筋が見えている一方、ESGについて政治的に分裂している米国では見通しがつかないようです。
日本が日本のルールを定めることは大前提です。ただ日本国内のベースライン(基準)を3800社強の全ての上場企業の適応に合わせるようだと、ISSBのグローバル基準とSSBJの日本版基準がかけ離れてしまう懸念が生じます。また日本政府が推進する資産運用立国の「サステナビリティの取組を促す金融機能の強化」にそぐわない基準となる可能性も高まります。
一方の日本の真のプライム企業、上位200~300社の情報開示のスタンスは欧米企業にさほど劣ることはありません。したがって、欧州と足並みを合わせて情報開示できるファーストトラックをこれら企業の選択肢として考えていただきたいです。
COP28の宣言にどれほどの日本企業が賛同して署名するかが、日本自身のルールメイクの水準におけるリトマス・テストになるべきでありましょう。
□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □
(『論語と算盤』経営塾オンラインのご入会をご検討ください。
https://bit.ly/3uM0qwl)
「論語と算盤」よく集めよく散ぜよ
よく散ずるという意味は、正当に支出するのであって、
すなわちこれを善用することである
お金をいかに増やすかのハウツウ本の部数は数多いですが、お金をいかに散ずるかという本は少ないです。資産運用するということは、まさに集まっている1000兆円強の一般個人の現預金を、よく散ずるここです。散ずることは、ただ投げ放るということでなく、経済・社会に意味ある支出こそが正当であり、善用することでありましょう。
「論語と算盤」富豪と徳義上の義務
社会の救済だとか、公共事業だとかいうものに対し、
常に率先して尽くすようにすれば、社会は倍々健全になる。
それと同時に自分の資産運用も益々健実になるという訳である。
世の中は広く、自分が見えている範囲は限られていますが、実は世の中はつながっているという示唆が行間から読み取れます。サステナブル・ファイナンスとはまさに、健全な社会と同時に自分の資産運用の健実を目指す投資です。
謹白
❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。
渋澤 健
【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他
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配信元:NTTデータエービック
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