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シブサワ・レター~こぼれ話~第49回「アブダビで実感した戦略的な投資」

インタビュー
配信元:NTTデータエービック
投稿:
シブサワ・レター~こぼれ話~第49回「アブダビで実感した戦略的な投資」

シブサワ・レター ~こぼれ話~

第49回「アブダビで実感した戦略的な投資」

 

日本資本主義の父 渋沢  栄一 から数えて5代目に当たる渋澤 健が、世界の経済、金融の “今” を独自の目線で解説します。

第49回のテーマは「アブダビで実感した戦略的な投資」です。

 

 

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。

 

 4月下旬にアラブ首長国連邦(UAE)である首都アブダビを訪れました。10年ぶりぐらいの感覚でいたら、入国審査で「2007年に訪れているね」と指摘されて驚きました。なんと17年ぶり。時の流れは早いものです。

 

 前回は経済同友会による初めて(そして、今のところ、最後)の湾岸地域視察団に参加して訪れ、ドバイ、アブダビ、カタール、オマーンを巡回しました。渡航前にイメージしていた「砂漠」よりも、きれいな青い海が広がっている景観が印象に残りました。百聞は一見に如かず。だから、「湾岸」地域と呼ぶのだと、当時思ったのを覚えています。

 

 同じUAEの都市であるドバイの方が日本では存在感があるかもしれませんが、当時はアブダビの方がリアルで生活感がそこにある印象でした。また、アブダビには意外に緑が多い。現地では原油よりも恐らく値が張る、真水をまいているからでしょう。今回も公園などの緑が目に入りましたが、さすが17年前と比べると数多い近代的な高層ビルの方が目立ちます。

 

 ドバイは世界中から富裕層などが集まるので注目を浴びていますが、実は資源が乏しいため、あえて国際ハブという戦略で繁栄を遂げました。ただ、この地域の本当のお金や戦略的な投資は石油・天然ガス資源が豊富なアブダビにあるということは今回も確信を持ちました。

 

 日本にとってUAEは隣国のサウジアラビアに次ぐ第2位の原油供給国と言われています。私はサウジに入国したことはありませんが(17年前は、セキュリティのリスクが高いという判断で視察が見送られました)、アブダビと比べると社会体制がもっと保守的だと聞いています。

 

 一方、アブダビは意図的に寛容でリベラルという社会体制を打ち出しているように感じました。見学した(世界最大と言われる)グランド・モスクや斬新な建築物であるルーブル美術館アブダビでは、多様な文化や宗教が共生しているというメッセージを様々な場面で演出していました。特に現在の世界情勢において、きれいな海の向こう岸に存するイランに対する自国のスタンスを明らかにしたいのでしょう。極めて戦略的です。

 

 戦略的な投資を実施するのがSWF(Sovereign Wealth Fund)すなわち「国家ファンド」という存在です。ただ、この地域の国家=王族、つまり、ADIAやMubadalaというアブダビの著名SWFは、ファミリー財産を運用するファンドとも言えるのです。

 

 ファミリーとして重視することは家族繁栄の持続性です。70年ほど昔までは貧しい漁村しかなかった枯れた地に油田が発見され、王族ファミリーは一気に世界有数の富豪になり、国は繁栄しました。ただ、いずれ、このような資源は枯渇します。

 

 17年前の当時、石油天然ガス資源大国であるアブダビが積極的に太陽光発電など持続可能なエネルギーに巨大な投資資金を投入し始めていたことが印象に残りました。なるほど、ファミリーの子孫が昔の生活へ逆戻りすることのないように、現在築いている繁栄の持続性のために、様々な長期投資を主体的に行っていたのです。

 

 また、UAEは豊富な石油・天然ガス資源で繁栄しましたが、言い換えると、世界が資源を購入し続けなければ繁栄が継続できない。世界と共に繁栄することが自国の戦略投資という位置付けが明確なのでしょう。現にUAEの対外直接投資残高は2005年($95億ドル)から2022年($2,400億ドル)と17年間で25倍も急拡大しています。

 

 もちろん日本の対外直接投資残高は2022年では$1.95兆ドルでUAEの8倍の規模です。しかし、2005年からの伸びは5倍と、伸び率はUAEの1/5に過ぎず、また、一人当たりの対外直接投資残高は、日本は$1万5千ドルである一方、アブダビでは$2万5千ドルと大きく差をつけられています。

 

 アブダビのようなSWFは日本に存在しません。ただ、王族というファミリーであろうが、日本全国の一つ一つの世帯という「プチ・ソブリン」の数多くの期待や希望は同じです。世代を超える家族の繁栄と持続可能性。子孫により良い社会を残したい。

 

 日本経済の内需(民間の消費・投資)は全体の6割強なので、必ずしも外需に頼らなければならない貿易立国ではありません。ただ過去25年、内需の割合がジリジリと減少する傾向が観測できます。日本の人口減少と比例していることは明らかであり、そういう意味で、日本経済は内需だけでは支えられない未来があることを示唆しています。

 

 であれば、長期的に世界と共に繁栄することは、アブダビと同様、日本の戦略投資であるべきです。日本は、長い年月にわたり、国際社会の平和と安定、繁栄のための国際協力を行ってきました。技術協力、有償資金協力、無償資金協力をODA(政府開発援助)の軸として、相手国政府機関や公共機関による社会課題を解決することに協力してきました。

 

 ただ、この協力とは相手国の開発課題や地球規模課題の解決を目指すことだけではなく、日本の未来世代の平和と安全を確保しながら繁栄を実現することが本来の目的だと思います。課題を解決する性質の資金が、実はODAの本質なのです。

 

 自分たちの社会にこれほど課題があるのに、何で知らない国の人たちのために貴重な財源をばらまくんだ!という近視眼的な批判がODAには尽きません。いやいや、そうでなないでしょう。これからの日本社会の未来世代の繁栄の先行投資がODAであるという認知度を日本社会で高めることが急務であると感じます。

ODAのあるべき姿とは、支援の(不適切な表現を用いれば)シャブ漬けでなく、国民の未来世代の繁栄のための民間投資の触媒です。子孫のことを戦略的に考えて投資するソブリンであれば、当たり前のことです。

 

 心強いことに、この当たり前の認識への潮目の変化を感じています。ODAを相手国政府機関や公共機関だけでなく、海外投融資事業などを通じて民間資金動員の検討が進み始めていると実感しています。また、JICA(国際協力機構)が途上国のプロジェクトに対して保証することで事業の信用不足を補完することや民間投資を実現できるようにグラント(無償資金)性の高いエクイティ型の資金を供給するための法改正の検討もされているようです。

 

 ODAの絶対量を増やすことができなくても、その活用の質向上によって、日本はもっともっと世界で存在感を示すことができて、その先行投資が、日本の数多くのファミリーの子孫の持続可能な繁栄へとつながるのです。これは、アブダビの王族だけの話ではありません。

 

 

□ ■ 付録: 「渋沢栄一の『論語と算盤』を今、考える」■ □

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  https://urldefense.com/v3/__https://bit.ly/3uM0qwl__;!!GCTRfqYYOYGmgK_z!445RZ0pT-yXPEh9IbOTObkj4V6ql0fSjmUc49BWgv8g6VIRf16jWu8OmMDZQkTaN6083_wTzI4qVU_HhtLZQAVD39VQOtQ$

 

「渋沢栄一訓言集」国家と社会

 

国交をして、道理正しく安全を保ちて、

いやしくも危険なからしむるは、

これ国を愛する者の当然の義務である

 

自分の国を愛しているからこそ、その国の未来世代の持続可能な繁栄も大事であると考えているからこそ、遠い国の知らない人たちの生活向上を促す国際協力という長期投資を国家戦略の柱に建てるべきです。

 

 

「渋沢栄一訓言集」国家と社会

 

国家を進め、国家を強くせんと欲するからは、

五歩十歩の進みを持って、小成に安んじてはならない。

他の列強と拮抗する程度まで、奮進せぬばならない。

 

もし渋沢栄一が、現在の日本の国際協力の当事者であれば、必ず声を荒げて主張したと思います。ちまちまするな。ガツンとやれ。ただちに。

 

謹白

❑❑❑ シブサワ・レターとは ❑❑❑
1998年の日本の金融危機の混乱時にファンドに勤めていた関係で国会議員や官僚の方々にマーケットの声を直接お届けしたいと思い立ち、50通の手紙を送ったことをきっかけとして始まった執筆活動です。
現在は今まで色々な側面で個人的にお知り合いになった方々、1万名以上に月次ペースにご案内しています。
当初の意見書という性格のものから比べると、最近は「エッセイ化」しており、たわいない内容なものですが、私に素晴らしい出会いのきっかけをたくさん作ってくれた活動であり、現在は政界や役所に留まらず、財界、マスメディア、学界等、大勢の方々から暖かいご声援に勇気づけられながら、現在も筆を執っています。

渋澤 健

 

【著者紹介】
渋澤 健
シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。コモンズ投信株式会社取締役会長。1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他

 

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渋澤 健 (シブサワ ケン)

シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役。

コモンズ投信株式会社取締役会長。

1961年生まれ。69年父の転勤で渡米し、83年テキサス大学化学工学部卒業。財団法人日本国際交流センターを経て、87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。

JPモルガン、ゴールドマンサックスなど米系投資銀行でマーケット業務に携わり、96年米大手ヘッジファンドに入社、97年から東京駐在員事務所の代表を務める。

2001年に独立し、シブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業。

07年コモンズ株式会社を創業(08年コモンズ投信㈱に改名し、会長に就任)。

経済同友会幹事、UNDP(国連開発計画)SDGs Impact運営委員会委員、等を務める。著書に『渋沢栄一100の訓言』、『人生100年時代のらくちん投資』、『あらすじ 論語と算盤』他。

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